◆男性の生殖器 Male reproductive system
Ⅰ 精巣と精巣上体
⒈ 精巣 Testis
男性生殖産物の主体をなしている精子を生産する一対の実質器官で、精巣上体とともに数枚の被膜に包まれて陰嚢の中にある。
梅の実ぐらい(縦4~5㎝、横2.5㎝、厚さすなわち矢状径3㎝内外)の大きさの長円体形である。
重さは約10~14g。
⒉ 精巣上体 Epididymis
精巣の上端から起こり、その後縁に沿って下る細長い器官で、上部を頭、中部を体、下部を尾という。
【精巣の構造】
精巣の外表を取り巻く結合組織性の白膜は後縁の中央部で肥厚して精巣縦隔をつくり、これから放射線状に結合組織性の隔膜が出て精巣の実質を多数の小葉に分けている。
各小葉は数条の曲がりくねる精細管からできている。
精細管は縦隔に向かって集まり、ここで互いに連絡して精巣網をつくる。
これから幾本かの精巣輸出管が出て精巣上体頭の中を走り、一本の精巣上体管に注ぐ。
精巣上体管は著しく曲がりくねりながら体を経て尾に至り、ここで精管に移行する。
精巣において精細管こそが精子を産生するもっとも重要な部分である。
精細管の壁をつくっている上皮を精上皮といい、その上皮は精細胞(生殖細胞)とこれを養う支持細胞(セルトリ細胞)からなる。
前者は分裂変形してついに精子となる。
精子に発育する一番未熟な細胞が精祖細胞である。
精祖細胞は分裂し、精娘細胞は管の管腔へと押し出される。
これらの精娘細胞は第一次精母細胞、つまり生殖細胞が最大に発育した細胞に分化し、更に分裂して第二次精母細胞となる。
この時期の染色体の数は46から23に減少する(減数分裂)。
新しく形成された第二次精母細胞に各一対は直ぐに4つの精細胞を形成するために再び分裂する。
これらの小さな精細胞は尾を成長させ、核、細胞質を濃縮し尖体帽(卵子の壁を破り貫通させるための酵素をもつ)を発達させて成熟する。
成熟した精細胞(精子)は尖体を含んだ23の染色体(核)をもつ頭部、細胞の運動に力を供給するためのミトコンドリアを含む中部、そして細胞の機動力を起こすための鞭毛をもつ残りの尾部から構成される。
精子は精巣網・精巣輸出管・精巣上体管を経て精管に入る。
隣り合う精細管の間には間細胞という特殊な細胞の集団がみられる。
間質細胞は精細管周囲に存在する脈管を含む疎性結合組織の中に分散していて、そこにはライディヒ細胞以外にも線維芽細胞も含まれている。
ライディヒ細胞はテストステロンを産生し、その分泌物を隣接の毛細血管に放出することが知られている。
この男性ホルモンは第2次性徴と同様に思春期における生殖器系の精管や腺の発達を刺激する。
⒊ 陰嚢と精巣・精巣上体の被膜
精巣と精巣上体は数層の被膜に包まれて陰嚢の中にある。
陰嚢は腹壁の皮膚ののび出したものであるが、メラニン色素に富むこと、汗腺の多いこと、皮下組織内に脂肪がなくて肉様膜という特殊の層があることなどで、普通の皮膚とは違っている。
肉様膜というのは平滑筋繊維を多量に含んだ結合組織層で、陰嚢のしわはこの平滑筋繊維の収縮によって生じたものである。
陰嚢の表面の正中線上には陰嚢縫線というすじがみられるが、これは胎生期に陰嚢の原基が左右から癒着した跡である。
陰嚢の下層には数層の薄い皮膜があって精巣を包んでいるが、これらの被膜と陰嚢は胎生期に精巣が下降するとき、腹壁が袋状にふくれ出してできたものであるから、その各層は腹壁の各層と全く一致している。
すなわち最外層は皮膚であり、最内層は漿膜である。
この両層の間に腹壁の諸層の伸び出した色々の被膜があるが、そのうちの主なものは外腹斜筋の伸び出した外精筋膜、内腹斜筋と腹横筋の続きである精巣挙筋、横筋筋膜の続きである内精筋膜である。
精巣を包む漿膜を精巣鞘膜といい、一般の漿膜と同じように壁側葉と臓側葉とからできている。
【精巣(卵巣)の下降】
精巣や卵巣は胎生時には腎臓の原基の付近に発生するもので、これが胎生中に次第に下降して前者は陰嚢の中に、後者は骨盤の中に坐を占めるようになるのである。
この現象を精巣(卵巣)の下降という。
男性では精巣の下降が始まると、鼠径部の腹壁がふくれ出て精巣が降りてくるのを待つ。
このふくれ出た部分がのちの陰嚢その他の精巣被膜となるのであるから、これらが成体における腹壁の各層と一致しているのは当然のことである。
この場合にふくれ出た腹膜を腹膜鞘状突起という。
腹膜鞘状突起は生後間もなくその基部が閉じて盲嚢となり、精巣及び精巣上体を包む。
これを精巣鞘膜という。
精巣鞘状突起が生後長く管状のまま残存するときは脱腸(鼠径ヘルニア)の原因となる。
またまれには精巣の下降が何らかの原因によって妨げられて、腹腔内あるいは鼠径部にとどまることがあり、このような場合にはこれを精巣停滞という。
Ⅱ 精管と精索
精管は鉛筆の芯よりやや太い一対の長管(直径約3㎜、長さ約40㎝)で精巣の生産物を運ぶ導管である。
精巣上体管の続きとして上行し、鼠径管を通って腹壁を貫き、骨盤外側壁の内面に沿って下って膀胱の後ろに達し、前立腺を貫いて左右別々に尿道に開いている。
その末端の膀胱の後ろにある部分は紡錘形にふくれていてこれを膨大部といい、それより先、すなわち前立腺の内部を通る部分は非常に細くなっていてこれを射精管という。
精管は精巣上体と鼠径靱帯との間では精巣に往来する脈管や神経とともに精巣被膜の続きによって包まれ、小指ほどの太さの索状体をなしている。
これを精索という。
浅鼠径輪をはいると精管は次第に精索の要素を失い、深鼠径輪を過ぎてからは、ただ精管血管だけに伴われて腹膜下を走っている。
精管の壁は粘膜・筋層(内縦・中輪・外縦の3層)・外膜からなる。
粘膜上皮は不動毛という運動をしない細い突起を備えた細胞からできている。
筋層は発達が特に著しく、管の太さの割に管壁が厚いから生体では精索の中に針金のような感じで触れることができる。
精索の中には内腹斜筋の分束である横紋筋繊維束が走り、精巣にまで及んでいる。
これを精巣挙筋という。
精巣を浅鼠径輪に向けて引き上げる。
Ⅲ 付属生殖腺
⒈精嚢 Seminal vesicle
膀胱底の後壁についている一対の紡錘形の細長い器官である(長さ3~5㎝)。
嚢と名付けられていても決して単純な袋をなさず、内部は粘膜の仕切りによって多数の小室に分かれている。
粘膜上皮は粘液を分泌する。
粘膜の外には3層からなる筋層、その外には結合組織性の外膜がある。
精嚢はちょうど胆嚢のような器官で、精巣で産出された分泌物を一時たくわえるとともに、これに自ら分泌した粘液を混入して射精時に射精管から尿道へと送り出すのである。
⒉前立腺 Prostate gland
膀胱の後下で直腸の前にある栗の実ほどの大きさの腺で、尿道と左右の射精管によって貫かれている。
肛門から指を挿入して触診することができる。
その分泌物は乳白色、漿液性の液で特有の精臭があり、多数の導管によって尿道に注ぐ。
⒊尿道球腺 Bulbourethral glaand
前立腺の下に位置し、深会陰横筋のなかに埋まっている一対の小腺で、尿道に開いている。
その分泌物は無色透明の粘稠な液で、射精に先立って性的興奮によって亀頭をうるおす。
女性の大前庭腺に相当している。
古く「摂護腺」といった。
その分泌物が射精に先立って尿道をうるおし、酸性の尿の有害な作用から精子を護るという意味である。
「前立腺」はprostata(pro=前、stata=立っているもの)の直訳。
Ⅳ 陰茎 Penis
陰茎は交接器をなすと同時に、その中に尿道を容れている。
これに根・体・亀頭の3部を区別する。
根は恥骨の下面に付着している左右に開いた部で、外からは隠れて見えない。
体は中央の円柱状の部で、陰茎の主体をなしている。
亀頭は尖端の樫の実の形をした部分である。
体と亀頭との境は、外形的にも内部構造的にも明瞭であるが、根と体とは移行的である。
【陰茎の構造】
陰茎は外皮とこれによって包まれた海綿体とからできている。
①外皮
陰茎体を包む皮膚は陰嚢と腹壁の皮膚との続きで、メラニン色素に富み、皮下脂肪を欠く代わりに、輪状に陰茎を取り巻く平滑筋性の肉様膜を含み、毛はほとんどない。
体を包んだのちに、包皮というひだをつくって亀頭の表面を包んでいる。
包皮の内面と亀頭の表面を覆う皮膚は平滑で色素に乏しく、粘膜のような感じを与える。
もちろん毛はない。
ここには包皮腺という一種の脂腺がある。
その分泌物は白色で、いわゆる恥垢(包皮垢)の主成分をなす。
皮膚と海綿体を包む白膜との間には陰茎筋膜があり、そのために陰茎の皮膚は海綿体に対してよく移動する。
②海綿体
a. 陰茎海綿体 Corpus cavernosum
一対の陰茎脚として恥骨角の下面から起こり、正中部に集まって、陰茎体の背部をその尖端までゆく。
陰茎海綿体の表面は白膜という結合組織の厚くて硬い皮膜で包まれている。
白膜は正中部で陰茎中隔となって海綿体のなかに進入し、これを完全に二分している。
b. 尿道海綿体 Corpus spongiosum
尿生殖三角の下面から起こり、陰茎の腹面の正中部を尖端に向かう。
その中心部は尿道によって縦に貫かれている。
c. 亀頭
一個の海綿体からできている。
これは尿道海綿体の続きで、その構造も同じである。
これらの海綿体の内部は結合組織と平滑筋からなる多数の少梁が網状に交錯し、その間に多数の小空間(海綿体洞)がつくられているから、その構造は海綿に似ている。
海綿体洞は一種の静脈洞で互いに連絡しており、動脈がこれに注ぎ、静脈がこれから発するから、常に少量あるいは多量の血液で充たされている。
勃起は海綿体の充血によっておこる。
内陰部動脈の枝である陰茎背動脈と陰茎深動脈の末端は、らせん動脈という蛇行する小動脈となって海綿体洞に直接開く。
このらせん動脈は平滑筋に厚く包まれ、そこに筋をゆるめる神経と縮める神経がそれぞれ多量に終わっている。
筋が神経性にゆるめられると多量の血液が海綿体洞に流れ込むわけで、一方海綿体の表面から静脈として流れ出そうとする血液が伸展性のない白膜でせき止められるので勃起が起きるのである。
勃起をして交接を可能にする主体は陰茎海綿体である。
尿道海綿体と亀頭とは白膜がうすいので、勃起の時に陰茎海綿体ほど硬くならない。
Ⅴ 尿道 Urethra
男性の尿道は尿と精液を体外に運ぶ管である。
内尿道口で膀胱に始まり、下行して前立腺と尿生殖隔膜を貫き、恥骨結合の後下で前方に曲がり尿道海綿体の中軸を縦に貫いて亀頭の尖端で外尿道口によって外に開いている。
それで尿道に前立腺部・隔膜部・海面体部の3部が区別される。
①前立腺部 Prostatic urethra
後壁正中部に精丘という高まりがある。
その中央部には前立腺小室という微小な管状のくぼみがあり発生学的には女性の子宮と膣に相当する痕跡器官である。
前立腺小室の両側には射精管が開いている。
なお精丘の両側には多数の前立腺導管の開口がみられる。
②隔膜部 Membranous urethra
尿生殖隔膜を貫く部分で、横紋筋性の尿道括約筋がある。
すなわち尿道も肛門と同様に一つは平滑筋性の膀胱括約筋により、一つは横紋括約筋の尿道括約筋によって締められるのである。
③海綿体部 Spongy urethra
最も長く、その末端に近く、亀頭のなかで舟状窩という広まりを示している。
また海綿体部の起始部には一対の尿道球腺の導管が開く。
尿道は粘膜とその外を取り巻く平滑筋層とからなる。
粘膜上皮は尿道の起始部では移行上皮、それより先は円柱上皮、舟状窩では重層扁平上皮である。
粘膜内には多数の粘液腺(尿道腺がある)。
◆女性の生殖器 Female reproductive system
Ⅰ 卵巣 Ovary
卵子を生産する一対の実質器官である。
骨盤上口の外側壁に接していて、梅の実ぐらいの大きさの扁平な長円体状を呈しているが、精巣よりは小さい(長さ3~4㎝、幅2㎝、厚さ1㎝前後、重さ5~8g)。
卵巣の自由表面をおおった腹膜の臓側葉は卵巣間膜をつくって子宮広間膜に移行している。
卵巣間膜の付着縁を卵巣門といい、卵巣に出入りする脈管や神経の通る所である。
卵巣の下端からは固有卵巣索が出て、子宮の卵管開口部のすぐ下についている。
【卵巣の構造】
表面は腹膜でおおわれ、その下層には結合組織性の白膜という薄い層がある。
白膜で包まれた卵巣実質は皮質と髄質とに区別される。
ただし皮質と髄質との境ははっきりしてはいない。
卵巣の表面をおおう腹膜は立方状の上皮細胞からなり、とくに胚上皮とよばれる。
①皮質 Cortex
表層部を占め、その中に無数の卵胞とその遺残がある。
卵胞は胎生初期に卵巣に迷入してくる原始生殖細胞が増殖発達して生じたもので、その幼若なものを原始卵胞という。
原始卵胞は成長してついに成熟卵胞(これをグラーフ卵胞ともいう)となり、思春期以降はおよそ28日ごとに一個ずつ(左右の卵巣のうちいずれかから一個)破裂して、卵子は卵巣の表面から腹腔のなかに飛び出る。
これを排卵という。
卵胞からは卵胞ホルモン(エストロゲン)が内分泌される。
これは一次性徴(性器)と二次性徴(乳房、性毛、皮下脂肪など)の発達を促し、(発情期のある動物では)発情を引き起こし、子宮の粘膜に受精卵を受け入れるための変化(肥厚・充血など)を起こさせる。
卵子の脱落した跡は特殊の細胞で埋められ、黄体という組織塊になる。
黄体は内分泌をいとなむもので、後に白体という状態を経て瘢痕化してしまう。
黄体からは黄体ホルモン(プロゲステロン)が内分泌される。
これは一方では排卵を抑制するとともに、他方では妊娠の持続と乳腺の分泌を助ける。
卵子はその直径が0.2㎜ほどあるから肉眼で観察することができる。
排卵直前におけるグラーフ卵胞の直径は20~25㎜にも達する。
一個の卵巣の中にある卵胞の数はおよそ40万個で、そのうち一生の間に排出される卵の総数はわずか400前後に過ぎない。
②髄質 Medulla
中心部を占める結合組織の部で、脈管と神経に富んでいる。
Ⅱ 卵管 Uterine tubes
卵管は排卵によって卵巣の表面から飛び出した卵子を子宮に向かって運ぶ一対の管で、その長さは約11㎝である。
卵管の外側端は卵巣に接触し、内側端は子宮底の外側隅で子宮に続いている。
しかし卵管は水平にまっすぐ走るのではなく、はじめ卵巣の上端に接してこれを抱き、次いで卵巣の前縁に沿って下行し、最後に内側へ曲がって水平に子宮に達する。
卵管は子宮端から卵巣端に向かって次第に太くなっていて、そのため子宮に近いところを峡部、中央を膨大部、卵巣に近い端を漏斗という。
漏斗はその周縁に多数の卵管采を備えて卵巣の上端部を抱いている。
この采に囲まれて卵管の腹腔口が開いている。
すなわち卵管の内腔は一端は腹腔に開き、多端は子宮腔に続いている。
その内壁の粘膜はひだのため著しく複雑になっている。
卵管の表面をおおう腹膜の臓側葉はその一側で卵管間膜という二重層となり、卵管を子宮広間膜に結合している。
卵管采はボールを手でつかんだように卵巣表面を包んでいる状態が描かれている。
しかし正常状態でも卵管采が卵巣表面から離れていることはしばしばある。
卵子は卵巣表面から一応、腹腔内に落ちるのであるが、これが卵管采の運動と卵管腹腔口から卵管内部に向かう腹膜液の流動(おそらく卵管の線毛の動きにより生じるもの)のために、さながら電気掃除機に吸い込まれるように卵管内に収容されるものと考えられる。
卵子が卵管内にうまく収容されず、卵管腹腔口から泳ぎ出した精子と腹膜腔内で受精し、腹膜面などに着床することがある。
これが子宮外妊娠である。
卵子は卵管を通過する間に膣・子宮を経て上ってくる精子と出会い、通常は膨大部で受精する。
【卵管の構造】
①粘膜
著しくひだに富み、線毛上皮でおおわれている。
線毛は子宮の方に向かって運動している。
②筋層
内輪外縦の2層からできている。
③漿膜
卵管の外表をおおう腹膜の臓側葉である。
Ⅲ 子宮 Uterus
子宮は受精卵を育て上げる器官である。
骨盤の中央のところで膀胱と直腸との間にあり、前後に扁平なむすび形をしている。
大きさは長さ7~8㎝、最大幅4㎝、最大厚3㎝前後。
これに体と頚の2部を分ける。
体は上半の大きな部分で、その上前端の最も幅の広いところをとくに底といい、その両側に卵管がついている。
頚は下方の細い部分で、その下半は膣部といって膣腔内に突入している。
体と頚との移行部はややくびれて細くなっており、これを峡部という。
子宮の内部には外形ととほぼ同形をした三角形の子宮腔がある。
子宮腔は子宮底では両側に向かって卵管腔に続き、頚部では管状となり(頚管)膣部の下端で子宮口によって膣に開口している。
子宮の表面を包む腹膜はその外側縁から扁平な子宮広間膜となって側方に行き、骨盤の外側部に達している。
その中には子宮円索と固有卵巣索があって、前者は骨盤の外側壁から鼠径管の中を通って大陰唇部に放散し、後者は卵巣つく。
いずれも子宮ないし卵巣の固定装置である。
固有卵巣索と子宮円索とは、発生学的には一続きの索状体で、中腎の下部の退化したものである。
これに相当するものは男性では精巣導帯で、成体では精巣下端と陰嚢との間にある。
【子宮の構造】
①粘膜
一名、子宮内膜ともいい、線毛円柱上皮でおおわれ(線毛の運動は膣に向いている)その中に多数の子宮腺がある。
②筋層
よく発達し、およそ内縦・中輪・外縦の3層に区別されるが各層の間には明瞭な境はない。
子宮壁が厚いのは主としてこの筋層の発達による。
③漿膜
腹膜の臓側葉である。
子宮の前後両面を包んだ漿膜は左右両側で前後のものが合して漿膜の二重層をつくっている。
これが子宮広間膜である。
子宮の両側では広間膜の中に多量の疎性結合組織が含まれていて、これを子宮傍組織という。
【月経による子宮の変化】
子宮の粘膜は思春期以降は約28日の周期で腺の延長迂曲とともに厚くなり、ついにその上層は出血を伴って剥離し、膣から体外に排出される。
これが月経である。
粘膜は月経ののち再び深層から再生する。
月経は排卵と密接な関係があり、各排卵の中間期に起こる。
月経の初来する機序は卵胞のホルモン(エストロゲン)と排卵の後に生じる黄体ホルモン(プロゲステロン)の消長にによって説明される。
月経によって子宮粘膜は一新され、次の受精卵の着床(の可能性)を待つのである。
【妊娠による子宮の変化】
受精卵が子宮の壁に着床すると月経前期と同じような変化を示している子宮はなお肥厚を続けて、その一部は脱落膜となり、更にその一部は卵膜とともに胎盤をつくる。
胎盤と脱落膜は分娩の時に全部剥離排出されるもので、これが後産である。
妊娠の場合には筋層も著しい変化を受け、各平滑筋繊維は平時の10倍前後にも肥大する。
これらの変化は分娩後数週間のうちに次第に旧状に戻る。
Ⅳ 膣 Vagina
膣は交接器であるとともに産道をなす。
前後に扁平な管で、尿道の後ろ、直腸の前にある。
上端は子宮膣部を取り巻き、斜に前下方に下って膣前庭に開く。
長さは8㎝前後。
子宮膣部を輪状に取り巻く膣腔の上端部を膣円蓋という。
膣円蓋は後側でとくによく発達し、この部は外から腹膜でおおわれて、腹膜腔に向かって突出している。
処女では膣の開口部に近いところに処女膜というひだがある。
処女膜は正常状態では膣口を完全に閉じているわけではなく、膣はこれを貫く孔によって外と交通している。
処女膜は性交によって裂け、のちに処女膜痕となって残る。
発育障害で処女膜が完全に膣口を閉じていると処女膜閉鎖といい、初潮の時に腹痛その他の障害をきたすが、外科的に切開を加えると簡単に正常化する。
【膣の構造】
①粘膜
重層扁平上皮でおおわれ、腺を欠く。
②筋層
内輪・外縦の2層の平滑筋からなる。
③外膜
ただし膣後壁の円蓋部だけは腹膜でおおわれている。
Ⅴ 尿道 Urethra
女性の尿道は男性のそれに比べ、はるかに短く(3~5㎝)、また曲折を示さない。
発生学的にいうと男性の尿道の膀胱から射精管の開口部までの間が女性の尿道に相当するのである。
内尿道口によって膀胱に始まり、膣の前をその前壁に接して前下方に向かって下り、尿生殖三角を貫いたのち、外尿道口をもって膣前庭に開いている。
尿生殖三角を貫くところに横紋筋性の尿道括約筋のあることは男性の場合と同じである。
Ⅵ 女性の外陰部
女性の外陰部とは尿道と膣の外口およびその周囲の総称である。
①大陰唇 Labium
男性の陰嚢に相当する一対の皮下脂肪に富む厚い皮膚のひだである。
左右のものが恥骨結合の前で相会して恥丘となっている。
思春期以後には恥丘と大陰唇には陰毛という特別の毛が発生する。
左右の大陰唇の間にある裂け目を陰裂という。
②小陰唇 Labium minus
陰裂内にある一対の皮膚のひだで、男性の陰茎の皮膚に相当している。
左右の小陰唇の間に囲まれた部分を膣前庭といい、ここに尿道(前)と膣(後)が開口している。
小陰唇の外側面の皮膚は陰茎の皮膚と同様に、メラニンを多量に含んで黒く、毛も皮下脂肪もない。
ひだの内側面すなわち膣前庭に面した側では色素が少なくて、表皮の角化をみないので淡紅色でその外観が粘膜に似ている。
③陰核 Clitoris
男性の陰茎に相当する部で、その形も構造も陰茎の縮図そのままである。
恥骨弓の下面から陰核脚として起こって正中線に集まり、小陰唇の前端のところで亀頭をもって終わる。
なかに海綿体を容れていることも陰茎と同じである。
④前庭球 Bulb of the vestibule
膣前庭の両側にある海綿体で外から球海綿体筋でおおわれている。
男性の尿道海綿体に相当する勃起装置である。
⑤大前庭腺 Vestibular gland major
一名 バルトリン腺という。
前庭球の後端にあるえんどう豆大の付属生殖腺で男性の尿道球腺に相当する。
導管は膣前庭に開いており、この腺の粘液性の分泌物は性的興奮に際し膣前庭をうるおす。
この他、膣開口部の周囲に多数の小前庭腺がある。
◆会陰と会陰筋
会陰とは本来は肛門と外陰部との間の部分をいうのであるが広い意味では骨盤の下口をふさぐ軟部を総称する。
広義の会陰は男性では尿道(前)および直腸(後)によって、女性では尿道(前)・膣(中間)および直腸(後)によって貫かれている。
会陰には皮下に多数の小筋がある。
これらの会陰筋はすべて横紋筋でこれに次のようなものが区別される。
①骨盤隔膜 Diaphragma pelvis
左右の肛門挙筋と尾骨筋とでできている。
骨盤の下口を閉塞する漏斗状の筋板で、その中央は肛門によって貫かれている。
肛門挙筋の表層には肛門を囲んで肛門括約筋がある。
尾骨筋は薄弱な板状筋である。
仙棘靱帯の前面にあって、これと表裏一体をなしているから、両者を離すことは不可能である。
②尿生殖隔膜 Diaphragma urogenitale (尿生殖三角)
恥骨弓の間に張る三角形の軟部で、結合組織繊維を多く交える筋板がその主体である。
筋板の素材は横紋筋繊維が主であるが、なお多量の平滑筋繊維を交えている。
尿道括約筋と深会陰横筋の2筋を区別するが、両者をはっきり分離することは困難である。
隔膜は男性では尿道、女性では尿道と膣によって貫かれている。
③会陰にはこのほかに浅会陰横筋、坐骨海綿体筋、球海綿体筋などがあって、いずれも勃起と射精作用に関与している。