中枢神経系は脊髄と脳とに分けられる。
しかし両者は別々の器官ではなく、形態学的にははっきりとした境界がなく、続いているものである。
◆ A. 脊髄 ◆
Ⅰ 脊髄の外景
脊髄は脊柱管の中にある柔らかい白色の器官である。
円柱状で、その太さはほぼ小指ほどである。
長さ約40㎝、太さは径1㎝前後、上は環椎と後頭骨との境の高さで延髄に移行し、下は第1~2腰椎の高さで円錐状に終わっている(脊髄円錐)。
脊髄は体肢の発達のために頚部と腰部とで少し肥厚している。
これをそれぞれ頚膨大、腰膨大という。
脊髄はその前面の正中線を走る深い前正中裂と後面の正中線を走る浅い後正中溝とによって外観的に左右の両半に分けられ、各半はさらに前外側溝、後外側溝という2条の浅溝によって前索、側索、後索の3索に区別されている。
後索は頚部ではさらに薄束と楔状束とに分かれている。
脊髄はその全長にわたって脊髄神経が左右両側に向かって出ている。
脊髄神経が脊髄から出るところは糸状の細い神経が上下に並んでいて、この部を根という。
脊髄神経根は前外側溝と後外側溝からそれぞれ一列になって出ているのであって、前者を前根、後者を後根という。
これらの根は幾本かずつが一団をなして、それぞれ相当の椎間孔に向かって集まり、ついには前根団と後根団も合して一幹となり脊柱管を出ていく。
後根は椎間孔の中に脊髄神経節をつくっている。
脊髄硬膜は各脊髄神経に相当して円錐状に突出し、脊髄神経を鞘のように包んでいる。
末梢神経における神経上膜はこの硬膜の続きである。
脊髄神経は31対である。
これをその相当する脊柱部に従って次の5郡に分ける。
①頚神経 Cervical nerves 8対
②胸神経 Thoracic nerves 12対
③腰神経 Lumber nerves 5対
④仙骨神経 Sacral nerves 5対
⑤尾骨神経 Coccyx nerves 1対
脊髄を、脊髄神経の出発部位に応じて、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄の4部に分ける。
尾骨神経の出るところは特に尾髄とは名付けず、仙髄に加えられている。
脊髄の長さは脊柱よりもはるかに短いから、各部の脊柱の各同名部と同じ高さに位するものではない。
たとえば、仙髄はほぼ第11胸椎から第1腰椎の高さにある。
そのため、脊髄神経は上部ではほぼ水平に外側の方に走って直ちに椎間孔を出るが、下るにしたがって次第に斜走し、腰髄や仙髄から出るものはみな垂直に走り馬尾をつくり、脊柱管の中を一定距離下行したのちに順次椎間孔を出ていく。
・腰椎穿刺
第3~4腰椎間を選ぶのは、1つにはこの部の椎骨の形態学的関係が穿刺に適することにもよるが、今1つの理由は、この部はすでに脊髄がないので損傷の恐れがないからである。
脊髄と脊椎とのずれは発生の初期ほど小さい。
このようなずれは脊髄の成長が脊柱のそれに伴わぬために起こるものである。
脊髄の退縮度は男性が女性よりやや強いから、成体では脊髄円錐の下端の位置は男性が第1腰椎の下縁、女性が第2腰椎の中部である。
Ⅱ 脊髄の内景
脊髄の横断面を見ると、その中心部に中心管(肉眼ではほとんど認められないほど細い)がある。
これは脊髄を縦に貫き、上は第4脳室に連なり、下は脊髄の下端で盲状に終わっている。
中心管を囲んでH字型の灰白質があり、その周囲は白質で取り巻かれている。
灰白質の前方に突出した部を前角、後方に突出した部を後角といい、左右両部を連ねる細い部を灰白交連という。
なお胸髄より上方では灰白質は側方に向かって側角を出している。
側角と後角との間には、毛様体という白質と灰白質の混合体がみられる。
白質は左右おのおの前索、側索、後索の3索に分かれ、前索と側索とは前外側溝と前角により、側索と後索とは後外側溝と後角によって不完全に境されている。
横断面で見ると、前正中裂はほとんど灰白質の交連部まで達しており、また後正中溝からは結合組織性の中隔が交連部まで及んでいるから、左右両半の境界は明瞭である。
後索と側索との間には灰白質の後角と、これに進入する脊髄神経の後根があるから、その境もはっきりしている。
これに反して側索と前索との境は明らかでない。
それは脊髄神経の前根が前角の種々の場所から出て、散在性に走っているからである。
脊髄はその高さによって、横断面の模様に特徴がある。
その要点は次の通り。
⑴ 断面の形は頚髄では横に長い長円形で、これが胸髄から腰髄に下るにしたがって、次第に比較的前後径が増してくるから、腰髄下部から仙髄にかけては円形に近くなっている。
⑵ 白質の面積は下から上に行くにしたがって次第に増している。
それは上部では下部へ通じる伝導路のほかに、その高さで派出する脊髄神経に関係のある線維をも含んでいるからである。
なお頚髄では後索は薄束と楔状束とに分かれている。
⑶ 灰白質はこれに反し、支配すべき体部の量の大きいところではよく発達し、そうでないところでは薄弱である。
それで頚髄と腰仙髄とでは体幹のほかに上肢ないし下肢が支配範囲に加わっているために、灰白質の面積が大きい。
胸髄では白質の面積が大きくて灰白質の発達が微弱であり、仙髄では白質がわずかしかないのに対して灰白質が広い面積を占めているから、両者は著しい対比をなしている。
なお頚髄と胸髄の灰白質には側角のあること、胸髄には胸髄核(背核)のあることも考慮すべきである。
Ⅲ 脊髄の構造
⒈ 灰白質
灰白質をつくるものは主として神経細胞体であり、これに加えてその突起の基部と、神経細胞に終わるほかのニューロンの神経終末とがある。
灰白質の神経線維はほとんど無髄性である。
神経細胞は大小さまざまで、不明瞭ながら一定の群をなして並んでいる。
同一群の細胞は互いに同じ種類に属するもので、これをその機能すなわち伝導路に対する関係から、次の3種に大別する。
①前角細胞
前角の中にある大きな神経細胞で、運動伝導路の最終のニューロンである。
これから出る遠心性の神経線維(神経突起)は前外側の方に行き、脊髄神経の前根となって前外側溝から脊髄の外に出ていき、骨格筋におもむく。
前角細胞の数は胸髄の各文節で左右両柱のものを合わせて約3000、頚部と腰部では体肢の存在のため、もっと多いから脊髄全体の前角細胞の総数はおよそ20万余りといわれる。
②中間質外側核
側角は頚髄下部から胸髄で発達し、ここに自律神経系の起始細胞がある。
これは前角細胞よりは小さく交感神経系の細胞で、これから発する神経突起は、いわゆる節前線維として前根を通って、交感神経幹にあるそれぞれの高さの神経節で節後線維とシナプスをつくる。
③索細胞
後角に見られるやや大型の細胞で、大部分が知覚に関する。
胸髄では後角の基部内側面のところに比較的局限した索細胞の集団がみられる。
これを胸髄核(背核)またはクラークの柱といい、これから出る神経突起は同側の側索の中に入り、上行して小脳に行く。
これが後脊髄小脳路である。
⒉ 白質
神経細胞を含まず、主に縦走の神経線維でできている。
後索は主として上行性線維からなり、側索には下行性伝導路(錐体側索路・前庭脊髄路)を含んでおり、前索はもっぱら下行性の伝導路からなる。
脊髄神経の中を通る伝導路は、脊髄を仲介として結局みな脳に達しているから、脊髄の白質は上に行くに従い次第にその量を増やしている。
これに反して灰白質は、頚膨大と腰膨大以外では高さによる量的差異はほとんど認められない。