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神経系【伝導路】 Nervous system 9

◆ D. 神経系の伝導路 ◆

 

伝導路の数は極めて多く、その経路は非常に複雑である。

今日なお未知の領域も多いため、重要なものだけを取り上げる。

伝導路を大別すると

①求心性伝導路

末梢の知覚装置あるいは感覚器官から始まり大脳や小脳の皮質に至るもの→上行性の経路

②遠心性伝導路

大脳皮質またはその他の運動ないし分泌の中枢から起こって、末梢の終末器官すなわち筋または腺に至るもの→下行性の経路

③反射路

①と②とをその経過の途中で連ねているもので、大脳皮質を通らない。

の3種となる。

伝導路は中枢神経系の中で網のように張り巡らされているので、中には上の3種のうちのいずれに入れるべきか困るものもある。

また知覚性のものは必ず上行性、運動性のものは必ず下行性とは限らない。

 

 

Ⅰ 反射路

 

脊髄神経の知覚線維は後根を経て脊髄にはいり、その本幹は後索の中を延髄に向かって上行し、さらに大脳皮質に達するが、その経過中に脊髄の中で多数の側副枝を出して運動性伝導路に連絡している。

このように大脳皮質を通らない知覚→中枢→運動という伝導路が構成されているが、このような経路を反射路または反射弓という。

反射弓は2種に区別される。

 

①単純反射弓

後根細胞の神経突起の側副枝が直接に前根細胞に連絡して生じる反射弓で、だた2個のニューロンからできているに過ぎない。

②複合反射弓

後根細胞と前根細胞との間に1個ないし数個の索細胞が介在しているもので、したがって3個以上のニューロン連鎖からなっている。

 

反射弓を通って起こる運動を反射運動という。

反射運動には大脳皮質は全く関与していないので、無意識中(例えば睡眠中)に行う運動は全て反射運動である。

反射運動は一般に目的にかなった防御運動で、系統発生的には随意運動よりは古い型のものである。

また日常生活において絶えず反復する運動(例えば歩行)は初めは大脳皮質の運動領の支配を受けるが、充分習得されると次第に反射的に行われるようになる。

こうして反射弓の存在によって、まず大脳皮質はその負担を軽くすることができる。

反射弓の存在によって刺激と興奮の伝わる経路が短縮されていることも、急速を要する防御運動には必要なことである。

腱を打つとその腱の所属する筋が瞬間的に収縮する。

この現象を腱反射という。

その機構は腱をたたいたために筋が伸び、その結果、筋紡錘や腱紡錘が刺激され、この刺激が知覚神経を通って脊髄に行き、ここで前根細胞を刺激するので、このための興奮が運動神経を経て筋に伝えられるのである。

腱反射は臨床上、病気の診断に重要なものであるが、それは腱反射の減弱・消失が末梢神経・筋の障害を意味し、腱反射の亢進は錐体路の故障ないし脱落を物語るからである。

臨床上もっともよく観察されるのは、膝蓋(腱)反射とアキレス腱反射である。

脳神経もまた脊髄神経と同様に反射弓の構成にあずかっている。

その単純反射弓は主として延髄・橋・中脳などの脳幹内に限られているが、複合反射弓は脊髄神経との間にもつくられている。

 

 

Ⅱ 求心性伝導路

 

上行伝導路ともいい、末梢からの刺激を中枢に導く経路の総称である。

これをさらに知覚・味覚・嗅覚・視覚・聴覚・平衡覚などの伝導路に分ける。

 

⒈ 知覚伝導路 Sensory tracts

 

主として皮膚と粘膜からの刺激(触覚・圧覚・痛覚・温覚・冷覚など)と筋・腱・関節などのいわゆる深部知覚とを大脳皮質へ導くものである。

注意すべきは、これらの基本知覚はそれぞれの通る神経線維が定まっていて、同一の線維の中を各種の刺激が通るのではないことである。

末梢神経内の知覚線維は脊髄神経節の後根細胞の樹状突起であるから、途中で中断されることなく脊髄神経節にはいる。

脊髄神経節から出る線維(=後根細胞の神経突起)は脊髄神経の後根を通って脊髄に進入し、ここでつぎの3系統に分かれる。

 

 ①脊髄に入った線維はT状に上下に分かれ、それぞれ多数の側副枝を出して脊髄の中を下行または

 上行する。

 下行するものは束をなして後索の中を下り、次第に後角の中に終わる。

 これは後根線維を下位の体節の運動ニューロンと連絡させ、広範な反射運動を起こさせるための

 ものである。

 上行するものはもっぱら後索の中を走り(下半身からくるものは薄束を、上半身からの線維は

 楔状束をつくる)、後索の上端にある薄束核と楔状束核に終わる。

 以上が第1ニューロンの範囲で、これを脊髄延髄路という。

 薄束核と楔状束核の神経細胞から発する線維は、延髄で内弓状線維となって正中部に向かって走り

 さらに正中線を越えて反対側に渡り(毛帯交叉)、脳幹を上行して視床に終わる。

 これを延髄視床路といい、第2ニューロンの神経突起の集束からできている。

 それらの線維は第4脳室の腹側部と中脳水道の外腹側部で比較的よくまとまった強大な束を

 つくっているから、これを内側毛帯という。

 視床の神経細胞(第3ニューロン)から出る線維は内包を通過して大脳皮質の体知覚領へ行く。

 これを視床皮質路という。

 ヒトにおける臨床的観察の結果、この経路には高級な触覚と深部知覚が通ることが明らかに

 されている。

 なおこの経路の一部は延髄の中で薄束核および楔状束核から分かれ、同側及び反対側の

 下小脳脚を通って小脳に行く。

 

 ②後根を経て脊髄にはいった知覚線維の一部は脊髄後角の索細胞に終わり、索細胞

 (=第2ニューロン)から出る線維は直ちに反対側に渡って、側索の表層を上行し

 内側毛帯の背外側に接して走り、一部は中脳の上丘に、他は視床に終わる。

 前者を脊髄視蓋路、後者を脊髄視床路という。

 脊髄視蓋路は上丘で視蓋脊髄路その他の遠心性経路と連絡して複雑な反射弓をつくっているが

 大脳皮質との直接の連絡はない。

 これに反して、脊髄視床路は皮膚や粘膜の痛覚・温覚・冷覚ならびに下級な触覚を伝える

 もので、視床核からさらに第3ニューロンが始まり、その神経突起は視床皮質路の一部と

 なって内包を通って大脳皮質の知覚領に達する。

 

 知覚性脳神経の伝導路も脊髄神経とほぼ同様の経過を示す。

 末梢からくる知覚線維には各脳神経所属の知覚神経節にはいり、その神経細胞から発す線維

 (神経突起)は橋または延髄にはいって、それぞれ所属の核に終わる。

 これらの知覚性脳神経の核を知覚核または終止核といい、およそ脊髄灰白質の後角の一部と

 薄束核・楔状束核に相当すると考える。

 これらの終止核の細胞(第2ニューロンの細胞)の神経突起は直ちに交叉して反対側に渡り

 脊髄から上ってくる内側毛帯に加わり、視床を経て大脳皮質にいっている。

 知覚伝導路は大脳皮質に達するまでには1)いずれも3個のニューロンからなり

 2)脊髄または脳幹で必ず一度交叉し、3)内包を通過している。

 

 ③脊髄神経後根の線維は脊髄にはいったのち、その側副枝の一部は同側の脊髄灰白質内

 の索細胞(胸髄核および前角と後角との移行部)に終わり、この索細胞の神経突起は再び

 同側(一部は反対側)の側索の表層を束をなして上行する。

 その一半は側索表層の後部を占め、延髄から下小脳脚(索状体)を通って小脳虫部の皮質に

 終わっていて、これを後脊髄小脳路という。

 他の半分は脊髄の横断面上では後脊髄小脳路の前に接して走り、橋の上端の高さまで登って

 急に後方に折れ返り、上小脳脚(結合腕)を通って、これも小脳虫部の皮質に終わっている。

 これを前脊髄小脳路という。

 これらの両経路はいずれも2個のニューロンからなり、交叉することなく同側性に走る

 (但し前脊髄小脳路の線維は脊髄内で一部交叉するという)。

 小脳皮質から先の連絡は主として小脳と中脳、中脳と脊髄とを結ぶ経路すなわち錐体外路に

 よって再び脊髄の前根細胞へ戻り、大脳皮質へは通じていない。

 このように脊髄小脳路は一種の広範囲な反射経路の一部をなすもので、筋や腱や関節からの

 深部知覚を導くものであり、この経路を通る刺激は意識には上がらない。

 

⒉ 味覚伝導路 Taste tract

 

舌の前2/3から発する味覚神経線維は、はじめ三叉神経の舌神経に集まるが、後に鼓索神経の中を通って顔面神経にはいり、これとともに延髄にはいる。

膝神経節を構成している神経細胞は(そのすべてではないかもしれないが)この味覚伝導路の第1ニューロンに属するものである。

また舌の後1/3の領域に属する味覚線維は舌咽神経の舌枝に集まり、舌咽神経の上下神経節の中で神経細胞をつくり、その神経突起は舌咽神経の本幹とともに延髄にはいる。

以上の味覚第1ニューロンの線維はいずれも延髄の孤束核に終わり、孤束核から発する第2ニューロンの線維は反対側に交叉して内側毛帯に加わり、視床で第3ニューロンとなって内包を経て大脳の味覚領に行っている。

すなわち味覚経路は知覚伝導路とその基本的な経路は変わらない。

 

⒊ 平衡覚伝導路 Equilibrium sense conduction path

 

平衡覚を司る末梢器官は内耳の半器官と前庭である。

これらから発する神経線維は内耳神経の一部である前庭神経をつくって脳幹にはいる。

この第1ニューロンの神経細胞体が内耳の中で前庭神経節をつくっている。

第2ニューロンは菱形窩底の外側部にある前庭神経核の細胞から始まり、一部は小脳に行き、他は前庭脊髄路として下行している。

このように平衡覚の伝導路は上行性のものでありながら、大脳皮質との関係が薄いところにその特徴がある。

このことは平衡覚そのものが意識に上ることの少ない点からもうなずかれる。

すなわち、その形態要素の大部分は反射弓の形成に関与して、前庭脊髄路は重要な下行性伝導路として脊髄の前根細胞に連絡しており、また小脳に行く経路も結局は小脳を介して下行性伝導路に連絡するものである。

 

⒋ 聴覚伝導路 Auditory tract

 

内耳の蝸牛から発する神経線維は、らせん神経節をつくったのち集まって蝸牛神経となり、脳幹にはいって菱形窩底の外部の外側部にある蝸牛神経核に終わっている。

これらから出る第2ニューロンの線維は菱形窩底の中を反対側に交叉し、上行して一部は中脳蓋の下丘に、他は視床に終わる。

これから発する第3ニューロンの線維は内包を通って大脳皮質の聴覚領に放散している。

聴覚伝導路は中脳の中では内側毛帯の背外側部に比較的密集した束をつくっている。

この束を外側毛帯という。

この経路も経過中にいくつかの運動性脳神経核(眼球運動を支配する神経の核)と連絡し、反射弓をつくっている。

 

⒌ 視覚伝導路 Visual tract

 

以上の上行性伝導路はいずれも形態学的には知覚伝導路と相同のものであるが、視覚伝導路は本来大脳内部の伝導路とみなすべきものであって、その経過やニューロンの構成も全く前者とは趣を異にしている。

網膜における杆状体と錐状体が視覚伝導路の第1ニューロンの細胞であり、第2及び第3ニューロンも網膜内にある。

第3ニューロンの神経突起は眼球後極に集まって視神経となって眼球を出ていく。

視神経は視神経交叉のところでいわゆる半交叉を行って視索となり、外側膝状体・視床枕および中脳蓋の上丘に終わる。

外側膝状体から発する第4ニューロンは、内包を通って大脳皮質の視覚中枢に放散している。

視床枕および中脳蓋上丘に終わるものは反射路の形成に関与しているだけで、視覚領との連絡はない。

半交叉は眼球の内側半から発する線維だけが交叉し、外側半からくる線維は交叉しない状態をいう。

ゆえにもし右の視神経が切断されると、右の眼からくる刺激の伝導は中断されるから、ちょうど右目を閉じた場合と同様の視覚障害が起こるが、視神経交叉よりも中枢部例えば右の視索が切断されると、両眼の網膜の右半からの伝導が遮断されるから、左右の眼とも視野の左半が消える。

視覚伝導路にも一つの重要な反射弓が付属している。

これは上丘において接続しているもので、運動性の脳神経核に行くとともに、脊髄の前角にも終わっているから、視蓋延髄路及び視蓋脊髄路と呼ばれる。

 

⒍ 嗅覚伝導路 Olfactory tract

 

きわめて複雑な多数の経路からなり、またその中枢部はまだ不明の点も多い。

嗅覚伝導路の第1ニューロンは、鼻腔の粘膜上皮の嗅細胞そのものである。

嗅細胞の神経突起は嗅神経となって篩板を貫き嗅球にはいり、その中で第2ニューロンすなわち僧帽細胞の樹状突起と連絡している。

この連絡部は各ニューロンが一つずつ球状体をつくっている。

これを嗅糸球体という。

僧帽細胞の神経突起は嗅索の中を後走して嗅野及びその付近に終わり、それから種々の路を通って海馬傍回に至り、その嗅覚領に終わる。

このほか嗅覚路の一部は嗅覚領を経由することなく、嗅索から直接に中脳の網様体に行き、また一部は、海馬傍回→脳弓→乳頭体→視床を経て同じく中脳の網様体に行っている。

これらの経路は、さらに下行性の網様体脊髄路を経て、運動性脳神経の起始核や脊髄神経の前根細胞へと連絡しているから、これによって嗅覚に対する様々な横紋筋の反射運動が起こりうるわけである。

乳頭体から視床に行く線維は第3脳室の側壁の中で著名な束をつくっている。

これは肉眼的にも剖出できるもので、乳頭視床束という。

 

 

Ⅲ 遠心性伝導路

 

または下行性伝導路ともいう。

中枢の興奮を末梢に伝えるもので、運動伝導路分泌伝導路とからなっている。

運動伝導路はさらに随意筋に行くものと不随意筋に行くものとに区別されるが、後者と分泌伝導とは自律神経系に属するものであるから、後述する。

 

⒈ 錐体路 Pyramidal tract

 

大脳皮質の運動領から発し、脳神経ないし脊髄神経を経て骨格筋その他の横紋筋に至る経路。

随意運動はこの経路を通って行われるものであるから、重要なものである。

しかし系統発生学的にみると、この経路は哺乳類において初めて現れた新しい伝導路である。

錐体の起源は大脳皮質の運動領(中心前回)にある神経細胞で、これから発する線維は内包・大脳脚・橋を経て延髄の錐体に達する(錐体路の名はここから)。

ここでその大部分は交叉(錐体交叉)して反対側の脊髄側索の中を下り、順次脊髄前角の前根細胞に終わる(錐体側索路)。

交叉しない残りの線維は同側の脊髄前索の中を下りながら、順次に交叉してすぐに反対側の前根細胞に終わる(錐体前索路)。

以上が第1ニューロン。

次に脊髄の前根細胞から始まる線維は前根を通って脊髄神経の中にはいり、途中で中絶することなく末梢に及んで随意筋に分布する。

以上が第2ニューロン。

なお錐体路の線維の一部は脳幹の中で交叉して、反対側の脳神経の運動核に終わり、これから発する線維はそれぞれの運動性脳神経となってその支配する随意筋に行っている。

このように錐体路は全て2個のニューロンからなること、そして必ず一度交叉して反対側の随意筋に行くことがその特性である。

錐体路の第1ニューロンは大脳皮質から始まって脊髄または脳幹に行くので、前者を皮質脊髄路、後者を皮質延髄路という。

 

⒉ 橋と小脳を経由する伝導路

 

大脳の前頭葉・側頭葉の皮質神経細胞から発する神経突起は、それぞれ強大な線維束をつくって内包に集まり、さらに大脳脚を通って橋にはいりここで橋核に終わる。

以上が第1ニューロンで、これを皮質橋(核)路という。

橋核細胞の神経突起は橋の中を横走して反対側に渡り、中小脳脚(橋腕)となって小脳髄質の中に進入し、放散して小脳半球の皮質に終わる。

以上が第2ニューロンで、これを橋(核)小脳路という。

この小脳皮質細胞(プルキンエ細胞)の神経突起は歯状核で中継されて、上小脳脚(結合腕)の中にはいり、交叉して主として反対側の赤核に終わる。

赤核から発する新たな神経線維は中心被蓋路(赤核オリーブ路)となって同側のオリーブ核に終わる。

オリーブ核からは三角束(山稜路、オリーブ脊髄路)が発し、脊髄の前索と側索との移行部の表層を下り、次第に前角に進入して前根細胞に連絡している。

なおその伝導路には途中オリーブから反対側の小脳歯状核に至る回路すなわちオリーブ小脳路が付属している。

この伝導路は小脳の運動調節作用を筋系に伝達するものと考えられる。

 

⒊ 線条体と淡蒼球を経由する伝導路

 

大脳前頭葉の皮質の運動性神経細胞から出る神経線維は同側及び反対側の視床の腹側部に終わり、視床から発する線維は同側の線条体ついで、淡蒼球にはいってそれぞれ中継される。

淡蒼球から出る線維は一部は直接に、一部は視床下核と黒質で中継され、同側及び反対側の赤核に終わる。

なお線維の一部は赤核へは行かずに中脳蓋の上丘に終わる。

次に赤核からの興奮は中心被蓋路、ついでオリーブ脊髄路を通り、また上丘からの興奮は視蓋脊髄路によって脊髄の前根細胞に伝えられる。

なお赤核から下降する線維の一部は脳幹の網様体でも終わっている(その先は網様体脊髄路となって脊髄に下る)。

この経路は筋の緊張・不随意運動などに関係するものと考えられている。

したがって大脳皮質との連絡はあまり強くない。

鳥類以下の動物では錐体路がなく、この経路が運動伝導路の内で最も重要な地位を占めている。

 

⒋ 視蓋脊髄路 Tractus tectospinalis

 

中脳の上丘(=視蓋)から発し、その大部分は交叉し、一部は交叉せずに脊髄前索の中に下り、線維の末端は順次前角の前根細胞に終わる。

上丘は視覚経路その他多数の求心性経路と連絡があるから、視蓋脊髄路はいわゆる視覚反射その他の反射弓の遠心脚をなすものである。

例えば、体に危険を及ぼすように外界の状況が目に映じたときに、これに対して反射的に防衛的または逃避的な運動を起こしたり、あるいは視覚によって身体の平衡を調節するものであると考えられる。

 

⒌ 前庭脊髄路 Tractus vestibulospinalis

 

延髄の外側前庭神経核から発する線維束で、末端は前根細胞に連絡している。

外側前庭神経核の神経細胞から出る神経突起は同側性に下降して脊髄にはいり、前索の中を錐体路の前に沿って走っている。

この伝導路は前庭神経とともに反射弓をつくっており、身体の姿勢を反射的に正しく保つことに役立つものとみられている。

 

⒍ 内側縦束 Fasciculus longitudinalis medialis

 

知覚性脳神経の終止核、中でも外側前庭神経核の神経突起の集束。

経路の一部は対側に交叉し、一部は同側を走る。

そのいずれもが上行及び下行し、末端は脳幹の運動性脳神経起始核(眼球運動の起始核)と脊髄前角との運動細胞に終わる。

中脳と延髄では、中脳水道及び第4脳室の腹側壁の中を正中線の両側に左右相接して走り、脊髄では前索後端部で前角の基部の内側部にある。

この伝導路は知覚性脳神経に付属する索細胞の神経突起の束であって、脳神経に関する間接反射弓の一部をなしている。

ゆえに頭部(ことに眼球)や頚部、さらに下って体幹や体肢の調和的共同運動はこの伝導路によって行われる。

 

以上の運動性伝導路の中で、錐体路は系統発生学的に最も新しいもので、ヒトでその発達が最高点に達している。

錐体路以外の運動性伝導路を錐体外路としてまとめ、錐体路に対立させることがある。

錐体外路によっては、一般に不随意的あるいは無意識的の随伴運動や筋の緊張に対する衝撃が導かれるのであるが、詳細に関しては今日なお不明。

上記の運動伝導路は、いずれも脊髄前角の前根細胞に終わるので、ここでは一つの前根細胞にすべての種類の運動性伝導路の線維が終わっている。

末梢神経系の一本の運動神経線維の中にあらゆる種類の運動性興奮が共同で通るわけで、これを終末共通路という。

こういう意味からすると、錐体路には末梢部すなわち第2ニューロンを加えない方が正しい。

 

 

Ⅳ 自律神経系の伝導路

 

全ての平滑筋の運動と腺の分泌とは、大体において反対の作用を有する2種の神経系から支配されている。

その一つは交感神経系であり、他は副交感神経系である。

交感神経と副交感神経系の興奮は意志から独立しているもので、無意識のうちに、すなわち自律的に内臓・脈管・腺などの機能を調整しているので、この両者を合わせて自律神経系といい、植物性機能を支配するとの意味から植物性神経系ともいう。

自律神経系に関する知識は今日なお不明の点が少なくない。

 

自律神経系の伝導路の起源は脳幹と延髄で、大脳皮質とは直接の連絡を持たず、脳幹や脊髄の中で求心性伝導路と連絡して反射弓をつくっている。

言い換えると、自律神経系の興奮は全て反射性で、これがその自律的なゆえんである。

自律神経系における伝導路は全て2個のニューロンから構成されているとの考えがある(生理学的実験による結論で、形態学的にはまだ証明されていない)。

すなわち第1ニューロンの細胞は脳幹または脊髄の中にあって、これから発する遠心性線維を節前線維といい、第2ニューロンの細胞は末梢の自律性神経節の中にあって、これから出る遠心性の線維を節後線維という。

 

⒈ 交感神経系の主な伝導路

 

第1ニューロンの細胞は胸髄と腰髄の側角の中にある。

これから発する節前線維はまず胸神経と腰神経の前根を、次いで交通枝を通って交感神経幹にはいり、その幹神経節をその他の末梢神経節の中で第2ニューロンに連絡する。

第2ニューロンから出る節後線維は一部は再び交通枝を通って脳脊髄神経の中に混入してこれとともに、他は交感神経の末梢枝となって、全身の平滑筋性及び腺性の器官に分布する。

 

交感神経内の求心性線維:内臓に分布する交感神経系の中に求心性線維が含まれているが、その正確な経過や連絡については不明の点が多い。

内臓疾患がしばしば一定の区域の皮膚の過敏を引き起こす。

このような過敏帯をヘッド帯という。〔Henry Headは英国の神経学者〕

これは罹患した器官からの刺激が交感神経内の求心性線維を伝って交通枝から脊髄神経節に送られるので、内臓の痛みがこの脊髄神経節の支配領域の皮膚に投影されることによるものと説明されている。

臨床上重要な現象である。

 

⒉ 副交感神経の主な伝導路

 

①動眼神経内の副交感性線維

節前線維は中脳にある動眼神経の自律性起始核(動眼神経副核)から発し、はじめ動眼神経の中を走り、連絡枝から毛様体神経節の中にはいる。

節後線維はこの神経節の神経細胞から起こり、眼球の中にはいり、毛様体と虹彩に分布して毛様体筋と瞳孔括約筋の運動を支配する。

 

②顔面神経内の副交感性線維

涙腺・顎下腺・舌下腺などの分泌線維を含んでいる。

その起始核は橋にある。

涙腺に行く線維は顔面神経からその膝神経節を素通りして大錐体神経の中にはいり、翼口蓋神経節の細胞(第2ニューロン)に終わる。

この細胞から発する節後線維は、頬骨神経を経て涙腺神経に吻合し、涙腺に分布するという。

顎下腺と舌下腺に行く線維は上唾液核(または顔面神経分泌核)から発し、鼓索神経から舌神経を経て顎下神経節にはいり、これから発する節後線維は、これら両腺に分布してその分泌を調節する。

 

③舌咽神経内の副交感性線維

耳下腺の分泌線維を含む。

その節前線維は延髄の起始核すなわち下唾液核(または舌咽神経分泌核)から発し、鼓室神経・小錐体神経を経て耳神経節にはいり、これから始まる節後線維は耳介側頭神経を経て耳下腺に分布する。

 

④迷走神経の副交感性線維

頚部・胸部・腹部(骨盤を除く)のすべての内臓に分布して、その運動と分泌を調節している。

起始核は延髄における迷走神経背側核である。

これから出る節前線維は迷走神経の末梢枝の主要構成要素として末梢に走り、頚胸腹部の自律性神経節を素通りして、所定の器官にはいる。

節前線維と節後線維の中継部がどこであるかについては不明な点が多いが、だいたいにおいて各器官の壁上ないし壁内にある神経節、たとえば腸管であればその壁内の腸筋神経節や粘膜下神経節が考えられる。

 

⑤脊髄神経内の副交感性線維

起始細胞は脊髄灰白質(後角基底部)の中にあり、それから発する節前線維は各後根を通って脊髄神経節の中にはいり、ここで中継された節後線維は皮膚に分布して立毛と発汗抑制とを行うとともに、血管に分布してこれを拡張させる役目を演じるといわれている。

 

⑥仙骨神経内の副交感性線維

仙髄には上に記した一般的な脊髄副交感神経のほかに、古くから知られている特殊な副交感神経系がある。

その節前線維は仙髄の前角と後角との中間部から起こり、前根を通って(一般の脊髄副交感神経は後根を通る)S2~S4の中にはいり、臓側枝すなわち骨盤内臓神経(または勃起神経)の主要素となる。

節後線維への中継はおそらく各支配器官の付近にある神経叢の中で起こるものと想像される。

節後線維の分布区域は骨盤内臓と外陰部で、すなわち排便・排尿・射精・勃起などの機能に関与している。

 

このように、いわゆる内臓の副交感性線維は大雑把に見通すと、迷走神経と仙骨神経とに含まれており、前者は頚・胸・腹部に、後者は骨盤部に分布すると考えてよい。

自律神経の高位の中枢は視床下部であり、視床下部と延髄や脊髄の自律中枢とを結合する伝導路の十分な解剖学的実証はまだなされていないが、中脳水道を取り巻く厚い灰白質の中を通る無髄線維系はそのような連絡系であるらしい。

 

⒊ 自律神経内の求心性線維

 

自律神経系の中に求心性の経路を考えるか―たとえば大内臓神経の中には求心性線維が含まれているが、これを自律性のものと考えるか、脳脊髄神経の一部とするかが問題である。

これらの点に関しては今後の検討に待つところが多い。

 

 

 

 

 

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