◆ B. 脊髄神経 ◆
Ⅰ 脊髄神経 Spinal nerve
①頚神経 Cervical nerve 8対 C1~C8
②胸神経 Thoracic nerve 12対 T1~T12
③腰神経 Lumbar nerve 5対 L1~L5
④仙骨神経 Sacral nerve 5対 S1~S5
⑤尾骨神経 Coccygeal nerve 1対 Co
頚神経の数は頚椎の数よりも1つ多く、番号はすぐ下の椎骨の番号と一致している。
胸神経以下では脊髄神経の数はそれぞれ相当部の椎骨の数と同じであり、その番号はすぐ上の椎骨の番号と一致している。
脊髄神経は各対必ずしも同じ大きさではない。
各部でその発達の異なっているのは、その支配領域の広さが体幹の高さによって違っているからである。
下部頚神経と腰仙骨神経の発達の著しいのは、これらがその高さの体幹だけでなく、そこから伸び出した上肢や下肢をも支配しているためである(頚膨大、腰膨大)。
脊髄神経は脳神経と違って、各対いずれも同様の構造と同様の分布状態を示している。
すなわち、すべて前根と後根としてそれぞれ脊髄の前外側溝および後外側溝から発し、一本に集まって椎間孔から脊柱管の外に出る。
前根はいずれも運動性であり、後根は一律に知覚性で椎間孔の中で脊髄神経節をつくっている。
これをベルの法則またはベル-マジャンディの法則という。
この法則は今日では多少の修正がある。
前根の中には運動性線維のほかに交感神経線維が混じっており、後根の中にも遠心性に走る副交感神経線維が走っているからである。
椎間孔を出た脊髄神経はすぐに2種の小枝を出す。
その一つは1本の硬膜枝で、非常に細く椎間孔を逆行して各相当部位の脊髄硬膜に分布してその知覚を司っている。
もう1つは交通枝で、ふつう1本であるが2~3本のこともあり、最寄りの交感神経節に連絡している。
本幹も椎間孔を出ると前枝と後枝とに分かれて、末梢に行く。
後枝は体幹の背部に、前枝は体幹の外側部と腹側部に分布している。
そのため一般に前枝の方が後枝よりも強大である(C2だけは例外)。
なぜならば、上肢と下肢は前枝の支配区域に属し、後枝とは関係がないからである。
脊髄神経は前枝も後枝もともに混合性で、皮膚その他に行く知覚線維(皮枝)と骨格筋に行く運動線維(筋枝)とを含んでいる。
すなわち前根と後根の線維は前枝と後枝とに分かれるまでに、混合してしまっているのである。
Ⅱ 脊髄神経の後枝
椎間孔の出口で前枝と分かれて後方に行き、2枝(皮枝と筋枝)に分かれる。
両枝とも固有背筋に運動枝を与えた(筋枝の役割)のち、体幹背面の皮膚に分布(皮枝の役割)する。
C1の後枝をとくに後頭下神経と称し、項部の諸筋を支配するのみで、皮枝をもたない。
C2の後枝はいくつかの筋枝を出したのち大後頭神経となって後頭動脈とともに走り、後頭部の皮膚に分布している。(後頭部の皮膚を支配)。
Ⅲ 脊髄神経の前枝
31対の前枝は胸神経を除いたほかは、みな脊柱の両側で上下互いに吻合して神経叢をつくっている。
C1~C4 頚神経叢-頚腕神経叢
C4~T1 腕神経叢-頚腕神経叢
T1~T12 肋間神経(神経叢をつくらない)
T12~L4 腰神経叢-腰仙骨神経叢
L4~S5 仙骨神経叢-腰仙骨神経叢
Co S4・S5と小さい神経わなをつくる
Ⅳ 頚神経叢 Cervical plexus
胸鎖乳突筋におおわれて側頚部にある。
その枝の主なものは以下。
⒈ 皮枝
①小後頭神経 → 後頭部
②大耳介神経 → 耳介の後部および耳下腺の付近
③頚横神経 → 側頚部および前頚部
④鎖骨上神経 → 鎖骨の上下および骨
これらはいずれも胸鎖乳突筋の後縁から皮下に現れ、①は胸鎖乳突筋と僧帽筋との間を斜めに後上へ、②は胸鎖乳突筋の表面を上の方へ、③は胸鎖乳突筋の表面を前の方へ、④は数枝に分かれて鎖骨の表面を下の方へ走り、全体として放射線状に分布して上述の各分布区域の皮膚に行っている。
⒉ 筋枝
①後頚筋群<(椎前筋{前頭直筋、外側頭直筋C1,2}・{頭長筋、頚長筋C2~6})、中斜角筋C3、肩甲挙筋C3,4>に枝を与える
②脳神経の合流 副神経と吻合して胸鎖乳突筋と僧帽筋へ
③頚神経わな(C1~3でつくるループ)として、舌下神経と吻合しながら、舌骨下筋群に枝を送る
④横隔神経 C4を主体にその上下の頚神経1~2本からなる
頚神経叢を出ると前斜角筋の前を下って胸腔に入り、心嚢と縦隔胸膜の間を通って
横隔膜に達し(そのとき肺門の前を通るが、迷走神経は肺門の後ろを下る)その筋に
分布している
途中で心嚢と胸膜にも知覚枝を送っている
Ⅴ 腕神経叢 Brachial plexus
上肢全体を支配する強大な神経叢である。
上肢帯にはその所属筋として浅胸筋(大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋)と浅背筋(僧帽筋、広背筋、肩甲挙筋、菱形筋)が付属しているから、腕神経叢の運動枝は皮枝よりもさらにその分布範囲が伸びて胸背部の表層までに及んでいる。
C5~C8の前枝とC4・T1の前枝の一部とからなる。
前斜角筋の後ろ(斜角筋隙)を通り、上中下の3束をつくって下外側の方に下り、鎖骨下動脈の上側に沿って、鎖骨の後下から腋窩に及んでいる。
⒈ 胸背部と上肢帯に行く筋枝群
大まかな分布領域を記す。
胸背部の筋群というのは浅胸筋群と僧帽筋を除いた浅背筋群とである。
①胸筋神経 Pectoral nerve C5~T1
内側胸神経C8・T1/外側胸神経C5~7
鎖骨の後下を通って大胸筋と小胸筋の間に達し、これら両筋に
②肩甲背神経 Dorsal scapular nerve C4~5
腕神経叢から背方に向かって出て肩甲挙筋と菱形筋に
③長胸神経 Long thoracic nerve C5~8
腋窩の内側壁の中を下り、外側から前鋸筋に
④鎖骨下筋神経 Subclavian muscle nerve C5~6
木綿糸ほどの細枝で、鎖骨下筋に
⑤肩甲上神経 Superior scapular nerve C4~6
肩甲切痕を通って肩甲骨の上縁から背面へ下り、棘上筋と棘下筋に
⑥肩甲下神経 Subscapular nerve C3~7
肩甲骨の前面で、肩甲下筋と大円筋に
⑦胸背神経 Thoracodorsal nerve C6~T1
肩甲骨の外側縁に沿って同名血管とともに下り、広背筋に
⑧腋窩神経 Axillary nerve C5~6
後上腕回旋動脈とともに外側腋窩隙を通って肩の背面に出て、小円筋と三角筋に筋枝を与えた後、上外側上腕皮神経として上腕の後外側の皮膚に
⒉ 自由上肢への神経群
一般に長大で、多くは筋枝と皮枝をあわせもっている。
①筋皮神経 Musculocutaneous nerve C5~6
腕神経叢から外側に向かって出て、上腕の屈筋群(烏口腕筋・上腕二頭筋・上腕筋)を斜めに貫き、これらの筋に枝を与えたのち、外側前腕皮神経として前腕橈側の皮膚に分布する。
②正中神経 Median nerve C5~T1
上腕動脈とともに上腕の前尺側を上腕二頭筋の尺側縁に沿って走り、下って肘窩に達し、さらに前腕屈側の浅深両筋群の間を通って手掌にはいり、放射線状にその終枝に分かれる。
その経過中に数多の筋枝を出して、尺側手根屈筋と深指屈筋(尺側半)を除くすべての前腕屈筋群ならびに外側の手筋群を支配し、また皮枝は手掌の橈側半を支配している。
③尺骨神経 Ulnar nerve C8~T1
正中神経の尺側に出て、上腕の後尺側を皮膚と上腕筋膜とだけにおおわれて下る。
ついで上腕骨の内側上顆と肘頭の間を通り、尺側手根屈筋の起始部を貫いて前腕の前面に出て、この筋におおわれながら尺骨動脈に伴って下り、途中で2終枝に分かれて手掌と手背との尺側に分布する。
その経過中に筋枝を尺側手根屈筋・深指屈筋ならびに内側の手筋群に与え、皮枝を手掌と手背の尺側半に送る。
この神経は上腕骨の内側上顆の後ろを通る所では皮膚と骨との間を走っているから、外部からの圧迫を受けやすい。
④橈骨神経 Radial nerve C5~T1
尺骨神経の後側から出て、上腕深動脈とともに上腕三頭筋を貫いて(外側頭と内側頭の間を通る)上腕骨の後面を斜めに下橈側に走り、さらに前下方にねじれて腕橈骨筋の起始の下を通り、肘窩の橈側部に現れる。
すなわち橈骨神経は上腕骨によじれながら絡みついているのである。
本幹は肘窩で深浅2枝に分かれて前腕の橈側を手に向かう。
その経過中、筋枝を上腕と前腕のすべての伸筋に与え、皮枝を上腕と前腕の背面ならびに手背の橈側半に送る。
⑤腕神経叢の皮枝
上記のほかに、腕神経叢から直接に内側上腕皮神経と内側前腕皮神経という2本の皮枝が出ている。
Ⅵ 肋間神経
T1~12の前枝で12対である。
胸部でははじめ内肋間筋を貫いて前走するが、前の方では内肋間筋と胸横筋の間を通る。
腹部では主として内腹斜筋と腹横筋の間を通る。
肋間隙における神経と血管の位置関係は一定している。
各肋骨下縁の内側に静脈が、その下に動脈がさらにその下に神経が走るから、各肋骨の上縁のところには血管も神経もない。
よって胸郭の穿刺を行うときには肋骨のすぐ上を刺すがよい。
第12肋間神経は肋間にはなくて最後の肋骨の下と通るというので、肋下神経と呼ばれる。
Ⅶ 腰神経叢 Lumbar plexus
T12~L4の前枝によってつくられ、腰椎の両側で大腰筋の中に隠れている。
その筋枝は腹筋下部・内寛骨筋・大腿の伸筋・大腿の内転筋群などの諸筋群を支配し、皮枝は鼡径部・外陰部・大腿の前面・下腿の内側などの皮膚に分布している。
その主な枝は以下。
①腸骨下腹神経 Iliac hypogastric nerve T12~L1
第12肋間神経(肋下神経)の下をこれと並んで前下方に下り、筋枝を側腹筋群に、皮枝を下腹部および臀部に与える。
②腸骨鼠径神経 Ilium inguinal nerve L1
①のすぐ下をこれと並行して走り、筋枝を側腹筋群の下部に与えたのち、精索または子宮円索とともに鼠径管を通って浅鼠径輪から皮下に現れ、男性では陰嚢、女性では大陰唇に分布する。
③陰部大腿神経 Genital femoral nerve L1~2
細い神経で、大腰筋の中で2枝に分かれ、一は精索または子宮円索に伴行して陰嚢または大陰唇とその付近に、他は鼡径部の皮膚に分布する。
④外側大腿皮神経 Lateral femoral cutaneous nerve L2~3
腰方形筋と腸骨筋の前を斜めに外下方に下り、上前腸骨棘の内側で鼠径靱帯の下をくぐり、大腿外側部の皮膚に分布する。
⑤大腿神経 Femoral nerve L2~4
腰神経叢の最大枝である。
大腰筋と腸骨筋との間を外下方に下り、両筋とともに鼠径靱帯の下(筋裂口)を通って大腿の前面に出る。
そこで筋枝を大腿の伸筋群(縫工筋・大腿四頭筋・恥骨筋・腸腰筋)に、皮枝を大腿前側の皮膚に与える。
一終枝伏在神経は斜めに下腿の内側に下り、その皮膚に分布する。
⑥閉鎖神経 Obturator nerve L2~4
腰筋の内側を下って骨盤にはいり、同名動脈とともに閉鎖孔を通って大腿上部の内側に出て、筋枝を大腿の内転筋群(長内転筋・短内転筋・大内転筋・薄筋・外閉鎖筋)に、皮枝を大腿内側の皮膚に与える。
Ⅷ 仙骨神経叢 Sacral plexus
L4~S5の前枝からなり、骨盤の後壁を大坐骨孔に向かって斜めに下る強大な神経叢。
主な枝は以下。
①上殿神経 Superior gluteal nerve L4~S1
梨状筋の上後で大坐骨孔を通って臀部の深層に出て、中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋に分布する。
②下殿神経 Inferior gluteal nerve L5~S2
梨状筋の下後で大坐骨孔から臀部の深層に出て、大殿筋に分布する。
③坐骨神経 Sciatic nerve L4~S3
人体中最大の神経で、ペン軸ほどの太さがあり、末梢までの長さは1m以上もある。
梨状筋の下で下殿神経とともに大坐骨孔を出て、大殿筋と大腿二頭筋の長頭とにおおわれて大腿の後側に下り、筋枝をすべての大腿屈筋群に与えたのち、膝窩のやや上方で総腓骨神経と脛骨神経とに分かれる。
a. 総腓骨神経 Commun peroneal nerve
大腿二頭筋の内側縁に沿って下の方に下り、腓骨頭下で腓骨の外側を前下の方へまわり、その終枝に分かれる。
i)外側腓腹皮神経 Lateral sural cutaneous nerve
膝窩において総腓骨神経と分かれ、下腿外側の皮膚に分布する。
ii)深腓骨神経 Deep peroneal nerve
腓骨上端の外側で、長腓骨筋と長趾伸筋との起始部を貫いて下腿前側の深部に出て
前脛骨動脈と並んで下り、足背部に行く。
その経過中に筋枝を下腿の伸筋群(前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋・第3腓骨筋)
と足背の諸筋とに与え、皮枝を足背の一部に送る。
iii)浅腓骨神経 Superficial peroneal nerve
深腓骨神経の外側で下腿の表層を下って背側に行く。
筋枝を腓骨筋に、皮枝を足背の皮膚に与える。
b. 脛骨神経 Tibial nerve
総腓骨神経から内側に分かれて膝窩の中央を下行し、下腿の後側の深層(ヒラメ筋と後脛骨筋との間)を後脛骨動脈と並んで下り、内果の後ろで内側足底神経 Medial plantar nerveおよび外側足底神経 Lateral plantar nerveとなって足底に行く。
その経過中に筋枝を下腿の屈筋群(腓腹筋・ヒラメ筋・膝窩筋・長母趾屈筋・長趾屈筋)と足底の諸筋に、皮枝を下腿の後面と足底の皮膚に送る。
④後大腿皮神経 Posterior femoral cutaneus nerve S1~3
梨状筋の下で大坐骨孔を通って坐骨神経の内側に出て、大殿筋の下縁のところで皮下に現れ、臀部および大腿後面の皮膚に分布する。
⑤陰部神経 Pudendal nerve S2~4
内陰部動静脈とともに前下方に向かって走り、骨盤の下壁を貫いて会陰に出て、筋枝を会陰筋(尿道括約筋・肛門括約筋)に、皮枝を会陰と外陰部の皮膚に与える。
Ⅸ 尾骨神経 Coccygeal nerve
ヒトでは非常に退化している。
S4・S5の前枝の一部とともに小さい神経わなをつくり、その枝によって尾骨付近の筋と皮膚を支配する。