起始 胸骨頭:胸骨上縁 鎖骨頭:鎖骨の胸骨縁
停止 乳様突起 後頭骨
神経 副神経 頚神経 C1~3
作用 両側:屈伸 片側:斜頸位
血管 上甲状腺動脈 後頭動脈 肩甲上動脈 後耳回動脈
速筋:遅筋(%) 64.8:34.2
筋連結 僧帽筋 大胸筋 頭板状筋
□特徴
胸鎖乳突筋は4つのはっきりした束からできているので、sterno(胸骨)cleide(鎖骨)occipito(後頭骨)mastoid(乳様突起)略してSCOMと呼ばれている。
深層束である鎖骨乳突部(CM)は、鎖骨の内側1/3から乳様突起に走っている。
3つの浅層束は、薄く削ぐとN字形を呈するが、鎖骨の内側端近くの下内側部分を除けば、それらは通常密に入り組んでいる。
鎖骨後頭部(CO)は、鎖骨乳突部(CM)の大部分をおおっており、後頭骨上項線の外側1/3に付着する。
胸骨後頭部(SO)と胸骨乳突部(SM)は、両方とも胸骨上縁から共通の腱をもって起こる。
胸骨後頭部(SO)は、鎖骨後頭部(CO)と一緒に上項線に付着する。
また胸骨乳突部(SM)は乳様突起上前縁に付着する。
胸鎖乳突筋は全体として1つの大きな筋束として形作られており、頸の前外側面上を斜め下前方に走る。
胸鎖乳突筋はその走行から肢位によって頸部の屈曲・伸展のいずれにも作用するが、相対的には屈曲が強い。
片側だけ働くと、同側の頭部を外側に傾ける。
同時に頭部を回転させ後頭部を引き下げ、おとがいを引き上げる。
これは一側の胸鎖乳突筋の短縮によっておこる典型的な斜頸の肢位でもある。
両側の胸鎖乳突筋の作用は、他の頸部筋の収縮状態によって変化する。
胸鎖乳突筋は頸椎に付着することなく、それを飛び越している。
胸鎖乳突筋の両側が同時に収縮すれば、頸椎上の頭部の伸展、胸椎上の頸椎の屈曲および頸椎前弯を増強させるため、頸椎全体の伸展をおこす。
もし、頸椎が柔軟ならば、この両側が収縮すると頭部の伸展を伴った頸椎前弯が増強し、胸椎に対する頸椎の彎曲が増強する。
また、もしこれに反して、椎体前部筋群の収縮により頸椎がまっすぐ保持されている時に、両側の胸鎖乳突筋が収縮すれば、胸椎に対して頸椎の屈曲が生じ、頭部の前屈がおこる。
胸鎖乳突筋と斜角筋群は頸部の運動の他に、強制吸息時に胸郭拡大に補助的作用をする。
胸鎖乳突筋の下部外側には鎖骨の上に三角形の大鎖骨上窩、鎖骨頭と胸骨頭との間には小鎖骨上窩、また左右の胸骨頭の間には頸窩がある。
これらはいずれも皮膚を通して外から観察することができる。
SFL上。
□呼吸筋群
呼吸筋は、肋骨を挙上する吸気筋群と肋骨と胸骨を下制する呼気筋群に分けられる。
これらの筋群はさらに、主動作筋と補助筋の2つのグループに分かれる。
胸鎖乳突筋は吸気の補助筋群(他は、前斜角筋・中斜角筋・後斜角筋)。
頸椎が固定されたときにのみ、また大胸筋と小胸筋は肩甲骨と上肢がすでに外転位であるときのみに吸気を補助する。
前鋸筋の下部線維と広背筋も上肢がすでに外転位の時に作用する。
□軟部組織の触診
胸鎖乳突筋は臨床上3つの理由から重要である。
①しばしば血腫のできる場所で斜頸の原因となる。
②前面と後面の境界部近傍にリンパ節があり、感染によってしばしば腫脹をきたす。
③むち打ち症のような頸椎の損傷で過伸展された場合に損傷されやすい。
胸鎖乳突筋の基部に手を当てて筋を両側同時に触診していく。
この筋は内側頭が胸骨柄に、外側頭が鎖骨内側1/3に起始部をもっている。
この筋の付着部である乳様突起方向への触診では、リンパ節の腫脹について配慮しながら胸鎖乳突筋辺縁部に付いても調べる。
胸鎖乳突筋は頭部を回旋した際の反対側で明らかとなる。
したがって、患者の頭部を一方へ回旋させることにより容易に起始部端で筋の触診が可能となる。
熟練すれば、胸鎖関節の触診の際、胸鎖乳突筋の起始部も触診できる。
胸鎖乳突筋は長く、管状で、起始部より停止部までが触診できる。
反対側の胸鎖乳突筋との形、大きさ、筋緊張の程度に差がないかも検査すべきである。
筋肉内の触知できる局限した腫脹は、血腫によるものかもしれない。
そしてそれが頭部を一方向へ回旋させる異常(斜頸)をひきおこす可能性がある。
触診でおきる圧痛は、頸部の過伸展障害に関係していることがある。
胸鎖乳突筋は胸鎖関節より乳様突起へ伸び、交通事故で頸部の過伸展損傷の際、しばしば引き伸ばされる。
【リンパ節鎖】
リンパ節鎖は胸鎖乳突筋の内側縁に沿って存在する。
正常ではリンパ節は普通触知できないが、腫大してくるとよく圧痛がある小さな腫瘤として触知される。
胸鎖乳突筋の部位の腫大したリンパ節は普通上気道感染を示唆している。
これもまた斜頸の原因となる。
【頸動脈拍動】
頸動脈は頸動脈結節(C6)の近くにある。
示指と中指の指先でこの部を圧することで頸動脈拍動を触知できる。
両側の頸動脈を同時に触診すると、頸動脈球反射をおこすため、左右別々に触診する。
両側の拍動はほぼ同じである。
両側の拍動をチェックし、その強さを比較する。
【鎖骨上窩】
鎖骨上窩は鎖骨上方、そして胸骨上端の頸切痕の外側に位置する。
病的な腫脹もしくは腫瘤の有無を調べるために触診する。
広頚筋は鎖骨上窩をおおっているが、その輪郭をおおい隠してはいない。
したがって、鎖骨上窩は普通滑らかにくぼみ、皮下の鎖骨との対比でその深さが際立っている。
鎖骨上窩の腫脹は鎖骨骨折といった外傷による浮腫によりおき、小さな腫瘤は同部のリンパ節の腫脹によるものかもしれない。
腫脹や腫瘤が触知されない時、肺尖部は鎖骨上窩まで張り出しており、ときどき刺創、鎖骨骨折、腫大したリンパ節の生検時に損傷を受ける。
頸肋がある時、それは同部に触知されることがある。
頸肋によって上肢の循環異常もしくは神経症状が起きることがあることに注意する。
□神経学的検査
頸部の神経学的検査は2つに分けられる。
①頸椎の内在筋の筋力テスト
②神経学的レベルに従った上肢全体の神経学的検査
第1相の神経学的検査は頸部の内在筋と頸椎の機能テストである。
この筋力テストは頸部の動きに影響を与える筋力低下の有無を明らかにし、加えて神経支配の異常も明らかにする。
第2相の検査ではいろいろなものがある。
上肢は頸椎よりの神経に支配されているので、第2相の検査では、上肢の各部に見られる神経損傷の1次的な原因を頸椎に求めることになる。
・第1相:頸部の内在筋の筋力テスト
患者が臥床していて、頭部を垂直に保持できないことがない限りは、筋力テストは座位で行う。
臥位でテストする場合は、重力の影響を差し引かねばならない。
【前屈】
主動屈筋
①胸鎖乳突筋 脊髄副神経 第Ⅺ脳神経
補助筋群
①斜角筋群 ②前脊柱筋群
頸部の前屈を調べる時は、患者が胸部を屈曲して頸部の前屈の代償をしないように、検者は片手で前胸部(胸骨)を固定しておくとよい。
検者のもう一方の手掌を患者の前頭部を包み込むようにおき、しっかりと支持する。
次に患者にゆっくり頸部を前屈するよう指示する。
検者はゆっくりと抵抗を加えてゆき、最大抵抗のところで筋力を測定する。
【後屈】
主動伸筋群
①某脊柱伸筋群(板状筋、半棘筋、後頭筋群)
②僧帽筋 脊髄副神経 第Ⅺ脳神経
補助筋群
①小さな頸部の内在筋群
頸部の後屈を調べる前に、後胸郭上部の正中部と肩甲骨を検者の一方の手でしっかり固定する。
これによって、頸部の後屈を体幹の伸展により代償したり、あるいは体幹が傾いていることにより頸部が後屈しているといった錯覚を防ぐことができる。
検者のもう一方の手の手掌を患者の後頭部におき、しっかりと支持する。
患者に頸部を後屈するよう指示する。
次にゆっくりと抵抗を増してゆき、最大抵抗のところで筋力を測定する。
検者の固定している手で僧帽筋を触診し、僧帽筋の収縮時の緊張度をみる。
【回旋】
主回旋筋
①胸鎖乳突筋 脊髄副神経 第Ⅺ脳神経
補助筋群
②小さな頸部の内在筋群
一方の胸鎖乳突筋のみが働き、検査する側への回旋の主動筋力となる。
右側への回旋を調べる時には患者の前に立ち、患者の肩関節を固定し、頸椎の回旋を胸腰椎が代償しないようにする。
検者の抵抗を加える手の手掌は患者の下顎の右側におく。
検者の抵抗を加える手掌のほうへ頭部を回旋するよう患者に指示する。
抵抗を加えていき、最大抵抗のところで筋力を測定する。
反対側を調べる時は肩関節と下顎におく検者の手の位置を変える。
そしてその結果を比較する。
【側屈】
主動側屈筋群
①前・中・後斜角筋 下部頚神経の前肢
補助筋群
①小さな頸部の内在筋群
右側屈の筋力を検査するには、肩関節挙上による代償を防ぐために患者の右肩関節に固定する手をおく。
次に検者の抵抗を加える手の手掌を患者の右側頭部におく。
患者に検者の抵抗を加える手の手掌方向へ頭部を側屈させるように指示するか、耳を肩関節に付けるように指示する。
側屈させてゆくに従い、検者は抵抗を加え最大抵抗のところで筋力を測定する。
・第2相:神経学的レベルによる検査
この検査は、頸椎椎間板ヘルニアといった頸椎の病変がしばしが腕神経叢(C5~T1)を通して上肢に症状を呈する事実にもとづいている。
上肢の神経学的な問題が頸部の病変に関係があるか決定するのに助けとなる。
筋力、反射、知覚領域が脊髄の神経学的レベルごとにテストされる。
□TP
関連痛パターン:後頭部(後頭部痛) 耳 目の上 頬 前頭部(前頭部痛) 喉 胸骨
時として耳鳴り 目のかすみ 姿勢性のめまい
TP:両頭の走行に沿って治療
急激な頸部後屈の動きを胸鎖乳突筋が制御しようとして損傷する(むち打ち症)。
持続的に、あるいは反復して頸部を前傾する必要のある職業の人や枕を当てる場所が悪かった時にもおこる(頸部前傾姿勢、特に上頸部症候群)。
斜角筋も同時に罹患することが多いので、同時に治療する必要がある。
姿勢による胸椎のアンバランスがみられるときはそれも矯正すること。