◇リンパ系
Ⅰ リンパ
毛細血管から組織の中に滲出した液体を組織液または広義のリンパといい、赤血球を含んでいないために無色透明の液体である。
組織液は一方において組織細胞に栄養を供給するとともに、他方これから新陳代謝の結果生じた老廃物を受け取るもので、血管と組織細胞の間に介在して物質代謝の媒介をするものである。
言い換えると、組織細胞はすべて組織液の中に漬かっているのであって、細胞の生存と活動は組織液の存在と性状に依存しているのである。
こういうわけで組織液の性状は組織の種類と活動状態によって、かなり変動する。
胸膜液・心膜液・腹膜液・脳脊髄液・眼房水なども、さらにマメや水疱の中にたまる液も出血の止まった傷口や潰瘍の表面から滲み出す透明な液も、広義に解釈すればみなリンパである。
狭義のリンパはリンパ管の中にある体液をさす。
その成分は血漿によく似ているが、蛋白質の濃度が低い。
体外に出すと凝固するが極めて遅く、十分に硬くならない。
その組成は身体の部位により、また器官の種類により大いに変化する。
とくに腸管からくるものは、食後は脂肪球を多く含み、乳白色に濁っているので乳糜という。
Ⅱ リンパ管
組織液の一部は再び血管に帰るが、残りは別の管系に入って狭義のリンパとなり、後に静脈の本幹に注ぐ。
この別の管系をリンパ管という。
リンパ管も血管と同様に、全身にくまなく分布している細管であるが、血管と違うところは、これが閉鎖循環系を形づくらない点である。
すなわち、リンパ管は組織内で毛細リンパ管(といっても非常に太いところがある)として始まり、次第に集まって胸管その他のリンパ本幹となり、結局静脈に注ぐ。
リンパ管の末端(起始部)は一般に閉鎖しているが、内皮細胞は著しく菲薄で、時に応じて細胞間に隙間をつくりやすく、基底膜も不完全である。
いわば形態的には閉鎖しているが機能的には多少とも開放しているといえる。
リンパ管の水源地は組織間隙が密に張り巡らされている湿地帯であることが多い。
湿地帯の一隅から川の源が発するように、リンパ管も組織間隙のリンパを集めて生まれるのである。
肝小葉・歯髄・脳の実質・内筋周膜で包まれた筋繊維束などは、ことに大きな湿地帯をなし、それらの内部ではまだリンパ管は発達していない。
リンパ球浸潤・リンパ小節・扁桃などは最も顕著な湿地帯である。
漿膜腔(胸膜腔・心膜腔・腹膜腔・精巣鞘膜腔)をうるおす漿液、前後の眼房を満たす眼房水、脳室系と軟膜腔を占める脳脊髄液なども広義のリンパであることは上記の通りだが、これらは貯水池のようなもので貯水池の水(リンパ)は腔所の壁の若干の部位にある落ち口から腔外のリンパ管に入る。
この落ち口は細網線維が特殊な配列を示して出来た一種の濾過装置で篩状班といわれる。
胸膜腔では胸膜の肋間部に、腹膜腔では横隔膜に落ち口があり、また軟膜腔の脳脊髄液は嗅神経をはじめ脳脊髄神経の周囲組織を通って、頭蓋腔や脊柱管の外部のリンパ管に注ぐ。
[リンパ管の経過]
①リンパ管の経過は、ほぼ血管ことに動脈に一致している。
②ただし一本の動静脈に対してリンパ管は2本以上、数本も並んで伴行しているのがふつう。
③またリンパ管は比較的、吻合や分岐が少ないから、血管のような樹状分岐状態がみられない。
④リンパ管はその経過中必ず一度以上はリンパ節を通り抜ける。
一般にリンパ節に流入する管(輸入管)の数は流出する管(輸出管)の数よりも多いから、リンパ管はリンパ節を通過するにしたがって太くなっていく。
[リンパ管の太さ]
リンパ管の太さは血管よりもはるかに小さいから、その観察はなかなか困難である。
一般にリンパ節の輸出入管のあたりまでは鋭いピンセットで剖出して肉眼で観察することができるが、それより末梢へたどることは困難または不可能である。
[リンパ管の壁の構造]
だいたいにおいて静脈と同様であるが、一般にこれよりも薄い。
すなわち毛細リンパ管の壁は内皮細胞の一層からなり、管が太くなるにしたがって内膜・中膜・外膜の3層をそなえるようになる。
切片標本を顕微鏡で観察するときに、細い静脈とリンパ管とを確実に区別することは不可能である。
管腔の中に赤血球があれば血管であることは確かであるが、赤血球がないからといってリンパ管と断定することはできない。
リンパ管もまた、その管腔に弁をそなえていてリンパの遠心的逆流を防いでいる。
弁は半月形の内膜のひだで、2枚1組になっており、その機構は静脈の弁と全く同じである。
その数は静脈におけるよりもはるかに多く、細い管では2~3㎜の間隙を隔てて続いてあるから、管がリンパまたは注入物で満ちているときには、数珠のような外観を与える。
胸管のようなリンパ管としては最も太いものにも弁がある。
Ⅲ リンパ性器官
リンパ球と細網結合組織とを主材としてつくられた器官をリンパ性器官と総称する。
形態学的にも、個体発生学的にも、系統発生学的にも①~④へと次第に分化してきたものである。
①リンパ球浸潤
もっとも単純なもので、細網組織の中にリンパ球が散漫性に集団をなしただけのものである。
比較的大きな広がりを示し、一定の形も限界もない。
全身に広くみられるが、特に皮膚・粘膜・脈管の周囲などの結合組織の中に見られ、体外からの抗原の侵入する部位に当たって分布する傾向が強い。
②リンパ小節
これは①と同様の構造を示しているが、リンパ球が球形にしかも密に集まったものである。
粘膜の上皮下に多く見られ、抗原の侵入に対応する構えを示す。
③集合リンパ小節
多数のリンパ小節が長円板に集合したもので、腸の粘膜に見られる。
消化呼吸系の入り口にある扁桃もさらに複雑化した集合リンパ小節と考えてよい。
④リンパ節
これは最も高度に分化したリンパ性器官で、その特徴は内部にリンパ洞という空所が発達していて、外から出入りするリンパ管(輸入管・輸出管)と続いていることである。
全身に広く分布し、リンパ管の中継所となしている。
Ⅳ リンパ節
リンパ節 Lymph nodeは最も分化したリンパ性器官である。
リンパ管の経過中に介在しているから、何本かのリンパ管が輸入リンパ管としてこれに流れ込み、何本かの輸出リンパ管がこれから流れ出しているわけである。
リンパ節は扁平な円形または長円形の実質器官で、大きさは様々であるが、およそ米粒からそら豆ぐらいである。
一般に大きい血管の周囲に多く存在し、局所的に集団をつくっている。
各集団は付近の一定範囲からリンパを集めているから、これをその局所の所属リンパ節という。
外傷による細菌の侵入や局部の炎症で腫脹し、あるいは癌その他の悪性腫瘍が転移を起こすのは、まずその局所の所属リンパ節であるから、身体の各部や各機関の所属リンパ節がどこにあってどういう名称をもっているかを知っていることは、臨床上きわめて重要なことである。
正常状態では、表在性のリンパ節でも皮膚の上から触れることはできない場合が多いが、病的に大きくなったり硬くなったものでは容易に触診できる。
リンパ節は⑴リンパ球を産出し⑵外傷などによって外界からリンパ管内に侵入してきた細菌・毒物などに対して免疫抗体を産出するものであって、からだの重要な防衛装置である。
[リンパ節の構造]
細網組織からなる実質器官である。
外表は線維性結合組織の被膜でおおわれ、これが内部に向かって分派して若干の小柱をつくっている。
小柱間の空所には球状ないし索状の海綿状組織があって、(リンパ)髄とよばれる。
その細い索状の部分は髄索という。
この髄と被膜や小柱との間の空間をリンパ洞といい、細網細胞があらい網工をなし、その中にリンパが通っている。
リンパ節の辺縁に近く、リンパ球集団の中に明るい球形の領域がみられる。
ここには未分化なリンパ球が集まっており、明中心、胚中心、二次小節などの名でよばれる。
輸入管として進入するリンパ管は被膜を貫いてリンパ洞に開口し、反対側から輸出管となって出ていく。
◇A. リンパ管の本幹◇
全身のリンパ管は、各体部でそれぞれのリンパ本幹に集まっている。
頚リンパ本幹・鎖骨下リンパ本幹・右気管支縦隔リンパ本幹・腸リンパ本幹・腰リンパ本幹がそれである。
このうち右側の頚リンパ本幹・鎖骨下リンパ本幹・気管支縦隔リンパ本幹の3者は集合して右リンパ本幹となり、右の鎖骨下静脈と内頚静脈の合流部に流れ込んでいる。
右リンパ本幹の長さはわずかに1㎝足らずである。
左側では、下半身のリンパ管を集める腸リンパ本幹と左右の腰リンパ本幹とが、第2腰椎体の前で合して、乳糜槽を経て胸管となり、上行して左の鎖骨下静脈と内頚静脈との合流角のところで、頚リンパ本幹および鎖骨下リンパ本幹と合して、静脈に流れ込んでいる。
右リンパ本幹も胸管もともにその静脈への流入部に弁装置があって、血液がリンパ管へ逆流するのを防いでいる。
Ⅰ 胸管
胸管 Thoracic ductは色鉛筆の芯ほどの太さの管で、その全長にわたって多数の弁をそなえている。
第2腰椎の前で横隔膜の直下、腹大動脈の右後側で、1本の腸リンパ本幹と2本の腰リンパ本幹の合流に始まり、大動脈の右後側について横隔膜の大動脈裂孔を通って胸腔に入り、はじめは大動脈と脊柱との間、後には食道と脊柱との間を上行している。
胸管の起始部は膨大して乳糜槽と名付けられているが、乳糜槽の位置や大きさはかなり変異が著しく、それらしい膨大部を認めないことが多い。
リンパ管もその本幹部は著しい左右非対称性を示す。
これも、その発生の初めには対称性が認められるのであって、非対称性は二次的現象である。
※乳糜槽
消化された食物から腸のリンパ管内に吸収された乳白色の液体のことで、リンパと脂肪の懸濁液である。
Ⅱ 頚リンパ本幹
頚リンパ本幹 Jugular trunkは頭部と頚部からリンパを集める本幹で、頚静脈に相当するものである。
後頭部と顔面の皮下リンパ管はそれぞれ、その所属リンパ節を経過した後に、頭部深在のリンパ管と合流し、内頚静脈に伴行してくる後頭部と頚部のリンパ管を合わせて頚リンパ本幹となる。
その経過中のリンパ節集団の主なものは以下である。
①後頭リンパ節 Occipital lymph nodes
外後頭隆起の付近にあり、後頭部のリンパ管が流れ込んでいる。
後頭動静脈の領域に属する。
②耳下腺リンパ節 Parotid gland lymph node
耳下腺の外表および内部にあり、主として浅側頭動静脈の流域からのリンパ管を集める。
③顎下リンパ節 Submandibular lymph nodes
顎下腺の付近にあり、主として顔面動静脈の分布区域、すなわち顔面浅層(前頭部・外鼻・眼瞼・頬・口唇など)と上下の歯および顎からのリンパを集める。
④深顔面リンパ節 Profund facil lymph nodes
側頭下窩の中にあり、顔面深部(眼窩・鼻腔・翼口蓋窩・口蓋・咽頭・側頭下窩)すなわち顎動静脈の分布範囲からのリンパ管を集める。
⑤浅頚リンパ節 Supreficial cervical lymph nodes
側頚部の皮下にあって、主として外頚静脈に沿っている。
頭部浅層のリンパ管の一部はこれに流れ込んでいる。
⑥深頚リンパ節 Profund cervicla lymph nodes
内頚静脈に沿って存在する大集団(20~30個)である。
頭部のリンパ節群から流れ出るリンパ管は、すべてこの神経リンパ節群に流れ込むから、顔面・眼窩・鼻腔・口腔などの疾患の時にはその触診を忘れてはならない。
Ⅲ 鎖骨下リンパ本幹
鎖骨下静脈の灌漑範囲、すなわち胸部(背部上半を含む)の表層と上肢のリンパを集める本幹を鎖骨下リンパ本幹 Subclavian trunkという。
その主なものは以下。
①肘リンパ節 Cubital lymph nodes
肘窩にある。浅深の両群に区別される。
②腋窩リンパ節 Axillary lymph nodes
腋窩にある大きな集団(20~40個)である。
上肢のリンパ管は一部は浅いリンパ管として皮下を、他は深リンパ管として深部動静脈に伴行して上る。
その経過中に前者は浅肘リンパ節を、後者は深肘リンパ節を通過し、いずれも腋窩リンパ節に入る。
腋窩リンパ節にはこのほかに胸部浅層から集まってくるリンパ管が注いでいる。
したがって乳房のリンパも大部分腋窩リンパ節に注ぐのであって、この点は乳癌の転移の経路として注意すべきである。
腋窩リンパ節からは数条の輸出管が出て、これらはほぼ並行して鎖骨下動静脈に沿って走り、静脈角の少し手前で合して一本の鎖骨下リンパ本幹となる。
鎖骨下リンパ本幹は同名静脈に沿って内側の方に走り、頚リンパ本幹その他と合して、鎖骨下静脈と内頚静脈との合流部で静脈角に注ぐ。
Ⅳ 気管支縦隔リンパ本幹
気管支縦隔リンパ本幹 Bronchomediastinal trunkは右側の胸郭とその内容のリンパを集める本幹で、その経過はおよそ奇静脈に相当している。
左側では胸郭と胸部内臓のリンパ管はこのような本幹に集まることなく、個々に胸管に注いでいる。
胸郭とその内臓に所属するリンパ節群の主なものは以下。
①胸骨傍リンパ節 Parasternal nodes
前胸壁の後面で胸骨の両側すなわち内胸動静脈の沿線にある。
②前縦隔リンパ節 Anterior mediastirnal lymph nodes
前縦隔の中にある。
③後縦隔リンパ節 Posterior mediastirnal lymph nodes
後縦隔の中にある。
④肋間リンパ節 Intercostal lymph nodes
脊柱の両側で各肋間隙にあり、胸膜壁側葉の下層にある。
⑤肺リンパ節 Pulmonary lymph nodes
肺内気管支の沿線に散在している。
⑥気管支肺リンパ節 Bronchopulymonary lymph nodes
肺門部に当たる肺外気管支の周囲に密着している多数のリンパ節集団で、臨床家は肺門リンパ節と呼んでいる。
肺結核の初期に反応を示し、Ⅹ線やMRIによってその主張を確かめうるために、臨床的価値が高い。
⑦気管気管支リンパ節 Tracheobronchial lymph nodes
気管分岐部にある集団をいう。
⑧気管リンパ節 Tracheal lymph nodes
気管下部の周囲にある。
・胸壁のリンパ管
前部のものは正中部に走って、胸骨リンパ節や前縦隔リンパ節に入り、これらのリンパ節から出る輸出管は上行して、右側では右リンパ本幹に、左側では胸管に注いでいる。
胸壁の外側部と後部のリンパ管は肋間動静脈に沿って各肋間隙を後走し、肋間リンパ節に注ぐ。
肋間リンパ節の輸出管は順次上位の肋間リンパ節を経て上行し、右では気管支縦隔リンパ本幹に、左では随所で胸管に入る。
・肺のリンパ管
表在性(すなわち胸膜下)のものも深在性のものも、血管に沿ってみな肺門部に集まる。
これらは途中で何回か肺リンパ節を通過したのち、肺門で気管支肺リンパ節に入り、さらに気管リンパ節を経て気管に沿って後縦隔の中を上行し、右ではその他の胸部内臓のリンパ管と合して気管支縦隔リンパ本幹をつくり、左ではそのまま胸管の基部に開口する。
・心臓のリンパ管
だいたい冠状動脈の経過に一致した分布を示している。
多数のリンパ管は次第に集まって左右それぞれ一本の本幹となり、右では上行大動脈の傍を上行して気管支縦隔リンパ本幹に流入し、左では肺動脈に沿って上行して胸管に注ぐ。
これらの両幹はその経過中に前縦隔リンパ節を通過する。
・食道のリンパ管
下部のものは横隔膜を貫いてリンパ節に、中部のものは後縦隔リンパ節に、上部のものは深頚リンパ節に注ぐ。
Ⅴ 腸リンパ本幹
腸リンパ本幹 Intestinal lymphatic trunkは骨盤の内臓と腎臓、副腎とを除いたすべての腹部内臓のリンパを集める本幹で、その領域はおよそ腹腔動脈と上下腸間膜動脈の分布範囲(すなわち門脈の流域)に相当している。
各器官のリンパ管は結局は腹腔リンパ節に集まり、このリンパ節群からはふつう1本(若干のこともある)の太い本幹が出て、乳糜槽で胸管に注ぐ。
この本幹を腸リンパ本幹という。
その領域のリンパ節群の主なものは以下。
①腸間膜リンパ節 Mesenteric lymph node
腸間膜の中に散在している大きなリンパ節群で100~200個のリンパ節を数える。
②結腸リンパ節 Colon lymph node
結腸間膜あるいはその癒着した部分の中に広く分布している。
③膵脾リンパ節 Pancreatic splenic lymph node
脾動静脈の沿線にあり、10個前後のリンパ節の集団である。
④左胃リンパ節 Left gastric lymph node 右胃リンパ節 Right gastric lymph node
左胃リンパ節は小弯部、右胃リンパ節は大弯部において漿膜の下層にある。
⑤肝リンパ節 Hepatic lymph node
固有肝動脈の付近で、小網の肝十二指腸間膜の中にある。
⑥腹腔リンパ節 Abdominal lymph node
腹腔動脈の基部の周囲を取り巻く10個前後のリンパ節の集団である。
・腸のリンパ管
腸間膜動静脈に沿って腸間膜の漿膜二重層の間を走り、腸間膜リンパ節または結腸リンパ節を通過し、次第に集まって太くなり、ついに腹腔リンパ節に入る。
胃のリンパ管は一部は小弯部に集まって左胃リンパ節に、他は大弯部に走って右胃リンパ節に入るが、これら両リンパ節群の輸出管はいずれも再び腹腔リンパ節に入る。
・膵臓のリンパ管
いたるところで膵臓の表面に現れ、一部は直接に一部は膵脾リンパ節を経て腹腔リンパ節に入る。
脾臓のリンパ管は浅在性のものも深部のものもみな脾門に集まり、膵脾リンパ節を経て腹腔リンパ節に注ぐ。
・肝臓のリンパ管
表在性のもの大部分および内部のものは一度、肝門に集合し、ここで肝リンパ節を通過したのちに小網の肝十二指腸間膜の中を通って再び腹腔リンパ節に流れ込む。
ただし肝臓上面のリンパ管の一部は横隔膜を貫いて胸腔に入り、前縦隔リンパ節に流入する。
Ⅵ 腰リンパ本幹
腰リンパ本幹 Lumbar lymph trunkは腹壁・背部下半・外陰部・下肢・骨盤とその内臓などのリンパを集める本幹である。
初め左右の総腸骨動静脈に、ついで腹大動脈と下大静脈に沿って走る数条のリンパ管は、リンパ節を経るにしたがって次第に太くなり、ついに左右それぞれ1~2条の本幹となって乳糜槽に注ぐ。
腰リンパ本幹とはこの流入部の比較的短い部位だけをさした名である。
この領域の主要なリンパ節群は以下。
①膝窩リンパ節 Popliteal lymph nodes
膝窩動静脈の周囲に集まっている数個の小型のリンパ節である。
②鼠径リンパ節 Inguinal lymph nodes
鼠径靱帯の下方にある大集団で、腹部(背部下半を含む)の表層・外陰部・下肢からのリンパ管を集めるもので、上半身における腋窩リンパ節と対比すべきものである。
浅深の両群に区別される。
浅鼠径リンパ節はその部の皮静脈と同層にあり、したがって大腿筋膜の上にある。
正常体でも皮膚の上からかすかに触れることができる。
深鼠径リンパ節は大腿筋膜の下層で、大腿静脈の内側に数個集まっている。
③肛門直腸リンパ節 Anorectal lymph node
直腸の周囲にある。
痔瘻にはこのリンパ節群の膿瘍が破れて慢性化したものがあり、結核性のことが多い。
④内腸骨リンパ節 Internal iliac lymph node
骨盤内で同名血管の沿線にある。
⑤腸骨リンパ節 Iliac lymph node
外腸骨動静脈と総腸骨動静脈の沿線に散在する。
⑥腰リンパ節 Lumbar lymph nodes
腸骨リンパ節に続いて腹大動脈と下大静脈との周囲にあり、その総数20~30個を数える。
下肢のリンパ管も上肢におけると同様に、浅深両群に分けることができる。
浅リンパ管は足背と足底の皮下のリンパ管網から始まり、およそ大小伏在静脈に沿って上行する。
そのうち小伏在静脈に伴うものは膝窩で膝窩リンパ節に流れ込み、大伏在静脈に伴うものは鼠経靱帯の下方で浅鼠径リンパ節に流れ込む。
浅鼠径リンパ節の輸出管は伏在裂孔を通って深鼠径リンパ節に入る。
下肢の深リンパ管は深部の血管、すなわち前後脛骨動静脈に伴って下肢の深部を上行し、膝窩リンパ節に入る。
膝窩リンパ節の輸出管はだいたい動静脈とともに上行し、深鼠径リンパ節に流れ込む。
鼠径部では外陰部のリンパ管が浅鼠径リンパ節に流れ込んでいる。
ただし陰茎深部や膣のリンパ管は浅鼠径リンパ節に入ることなく、骨盤の中のリンパ節に入る。
浅深鼠径リンパ節の輸出管は鼠経靱帯の下をくぐって、外腸骨動静脈とともに腹腔内に入り、腸骨リンパ節を順次に経過して腰リンパ節に入り、ついに腰リンパ本幹となって乳糜槽に注ぐ。
骨盤壁と骨盤内臓のリンパ管は次第に集まって、結局は内腸骨リンパ節を経て腰リンパ節に入るのであるが、直腸と肛門のリンパはまず肛門直腸リンパ節に集まった後に内腸骨リンパ節に注ぐ。
◇B. 脾臓◇
脾臓 Spleenは発生学上は消化管と密接な関係があるが、構造と機能の上からは脈管系に所属する器官である。
腹腔の左上隅において横隔膜に接して後腹壁の近くにある器官で、大きさは同一個体でも充血の程度によってかなり変動するが、およそ子供の握り拳ほど(長さ10㎝、幅6~7㎝、厚さ約3㎝、重さ80~150g)である。
その表面は脾門を除いては全面にわたって腹膜で包まれて自由表面をもっている。
前縁には2~3個の切痕がある。
また内側面に脾門があって、脈管や神経がここから出入りしている。
脾臓の働きは⑴赤脾髄において老化した赤血球を破壊し、体外から侵入したり体内に生じた異物や細菌を分解処理する。
⑵白脾髄においてリンパ球を産出している。
脾臓は生命に必須のものではなく、手術で切除されても生きていくことができる。
[脾臓の構造]
脾臓は実質器官で、その表面は比較的厚い結合組織の脾被膜で包まれている。
被膜は実質の中に向かって脾柱という突起を出している。
脾柱は強い膠原繊維からなり、器官の支柱をつくっている。
脾柱の間を充たす脾臓の実質は細網組織からなり、脾髄と名付けられる。
その中にリンパ細胞の集団でできた円い脾(リンパ)小節が散在している。
脾小節ではリンパ細胞が生産される。
脾臓の切断面を肉眼で見ると脾髄の部は暗赤色で、脾小節の部は白い点状に見えるので、前者を赤脾髄、後者を白脾髄ともいう。
脾動脈は脾門から中に入り、枝分かれして初めは脾柱の中を走るが、後には脾髄の中に入る。
このように実質の中に進入した動脈は、脾小節を貫き(中心動脈)、さらに細かく分岐し、赤脾髄に開放して終わっている。
その内皮細胞はかごのように隙間をつくっており、血球が身を細めて通り抜けることができる。
脾洞に続く静脈は直ちにまた脾柱に帰り、その中を走って脾門を出て脾静脈となって門脈に注ぐ。
脾臓の血液が脾静脈から門脈を経て肝臓に流れ込むことは注意すべき事実である。
脾臓で破壊された赤血球の血色素(ヘモグロビン)は、こうして直接に肝臓に運ばれ、ここで胆汁色素(ビリルビン)に作りかえられる。