前腹筋、側腹筋、後腹筋の3群に分ける。
腹壁をつくる筋群は胸壁とは異なり、体肢を含まない。
前腹壁は扁平な3層の筋と垂直に走る分節状の一対の筋で構成される。
3層の筋の腱(腱膜)は正中線で交錯し、この腱膜(腹直筋鞘)の中に腹直筋が入っている。
扁平な筋群は体幹の側面(鼠径靭帯、腸骨稜、胸腰筋膜、下位の肋軟骨、肋骨)から始まる。
最外層の外腹斜筋はその中に鼠径靭帯を含む。
これら3層を構成する筋によって腹壁の圧力が増加し、呼吸・排便・排尿などの運動が行われる。
また脊柱の過激な前弯や腰椎の伸展に拮抗し、腰椎部での脊柱カーブの維持にも働く。
腹壁の筋群は体幹の強力な屈筋群である。
これらの筋群が脊柱軸の前方に位置する時、脊柱全体を腰仙関節と胸腰関節部で前方に引く。
この力はテコの原理に従う。
すなわち、テコは2つの力が考えられ、下方のテコの腕は仙骨岬角と恥骨結合間の距離に相当し、上方のテコの腕は胸部脊柱と剣状突起間の距離に相当する。
腹直筋は剣状突起と恥骨結合を直接結ぶ強力な屈筋であり、胸郭下縁と骨盤を結ぶ内腹斜筋と外腹斜筋が腹直筋を補助している。
それゆえに腹直筋は真っ直ぐに締め付けるコルセットとして、内腹斜筋は下後方に締め付けるコルセットとして、外腹斜筋は下前方に締め付けるコルセットとして作用する。
また、斜走している筋群は支えとしても作用する。
前腹筋
前腹壁の中を縦に走る筋群で、舌骨下筋群と同系のもの。
腹直筋 Rectus abdominis
起始 第5~7肋軟骨 剣状突起
停止 恥骨結合 恥骨結節
神経 肋間神経 T6~12
作用 胸郭前壁の引き下げ 骨盤前部の引き上げ→脊柱の屈曲
血管 上下腹壁動脈
速筋:遅筋(%) 53.9:46.1
□特徴
正中線の両側で前方腹壁を形成しており、2つの筋束から成る。
厚くて幅の広い筋肉の束である。
下位になるにつれて筋は徐々に細くなり、腱画(臍レベルに1個、上方に2個、下方に1個)によって分けられている。
上位線維と下部線維は個別に収縮する。
全体が両側同時に働くと、体幹を側屈させる。
臍より下部の筋は明らかに細くなって下行し、強力な腱が恥骨稜、恥骨結合に付着し、さらに対側の恥骨結合部に広がって付着している。
腹直筋は前後から腹直筋鞘といういたって強い結合組織のさやで包まれている。
腹直筋鞘はその外側縁で側腹筋の腱膜に続いているものであって、前葉は腱画とかたく癒着している。
左右の腹直筋鞘は正中線で相合して前腹壁に一直線の筋膜部すなわち白線(ハンター線)をつくる。
白線は臍において臍輪という孔によって貫かれ、臍動脈索・肝円索および正中臍索がこれを通過している。
弓状線より下方では腹直筋の後方に筋はない。
中央部では3層の筋によって筋鞘が構成される。
上部では前面の筋鞘は外腹斜筋から構成され、後面では腹直筋は肋軟骨に付着する。
腹直筋は前壁の前面にあって、脊柱から離れた位置にある2つの筋束を形成し、胸腔底と骨盤前部の間の間隙を橋渡ししている。
腰椎彎曲の平坦化は骨盤レベルから始まる。
骨盤の前方傾斜に対しては股関節伸筋群がつり合いとして働く。
ハムストリングや大殿筋が収縮すると骨盤を後傾させ、棘間線を水平面に回復させる。
仙骨も水平となり腰椎彎曲を減少させる。
この過程に決定的な役割を果たす筋群は腹筋群であり、とくに腰椎彎曲の両端を結ぶ腹直筋がテコのような作用をする。
したがって腹直筋と大殿筋の収縮があれば、腰椎彎曲を平坦化するのに十分である。
これより後は、傍脊柱筋の収縮により脊柱が伸展し上位腰椎が後方に引かれる。
上位脊柱部に負荷がかかる際には、前方へ張り出している起重機に例えられる脊柱は、頸椎彎曲を増大させ腰椎彎曲を減少させることによって、その前方への張り出しを少し大きくする。
同時に、傍脊柱筋群はこの作用を中和させるために緊張を増す。
したがって、腹筋群は安静時に脊柱を積極的に支持しておらず、腰椎彎曲を意識的に平坦化させるには腹筋群が作用する。
たとえば、”気をつけ”をしたり、体幹屈曲を伴うような重い物を持つ時に活動的になるといった具合である。
SFL上。
□TP
関連痛パターン:中部胸椎 および腰椎の高さで横断的にある
TP:剣状突起の下 および外側
急激な負荷、重い物体の持ち上げ動作、ストレス、不適切な姿勢などで損傷する
体幹の伸展を行う際には、腰椎を傷めないように十分気を付けること
錐体筋 Pyramidalis muscle
起始 恥骨 恥骨靭帯
停止 臍と恥骨の間の白線
神経 肋間神経
動脈 下腹壁動脈
恥骨結合の上方にある三角形の小筋で、しばしば欠如する。
側腹筋
固有胸筋と同系の筋群で、腹壁外側部の中にあり、3層の広大な板状筋からなっている。
肋間神経と腰神経叢の枝の支配を受ける。
これらの筋は肋骨を下げ、脊柱を曲げるとともに、腹腔の内容を圧迫して腹圧を加えるもので前腹筋や横隔膜と共に排便・嘔吐・分娩などの際に重要な役割を演じる。
これらの筋は内側縁は腱膜となって腹直筋鞘をつくっている。
すなわち内腹斜筋の腱膜はその内側縁が前後2葉に分かれて腹直筋の前後両面を包み、さらに外腹斜筋の腱膜が前葉の表層に、腹横筋の腱膜が後葉の表層に加わって、これらを補強しているのである。
外側の筋群は3層に配列し、それぞれの筋繊維群は異なった方向に走行する。
深層(腹横筋)線維は横走し、中間層(内腹斜筋)は上内側方向に斜走し、表層(外腹斜筋)は下内側方向に斜走する。
外側筋群の線維とその腱膜は、腹部の周りに筋性の腹帯を形成する。
一側の外腹斜筋線維は反対側で内腹斜筋と直接連絡する。
対側も同様であり、全体として腹斜筋群は長方形でなく、ダイヤモンド型をしたカーペットの形をしており斜走している。
この斜走がウエストのくぼみを決定している。
腰のくぼみを回復させるには、腹斜筋の緊張を高めなければならない。
体幹の回旋に主に関係する。
腹斜筋群の力学的効率は腰部周りのらせん状の走行と、脊柱から離れた胸郭に付着していることによって高められている。
その結果腰部と下部胸部の脊柱を動きやすくしている。
これらの筋群は同じ方向に斜走して腰を包み、腱膜も同じ方向に続いている。
それ故にこれらの筋群は、回旋運動では協同的に働いている。
外腹斜筋 External oblique
起始 第6~12肋骨外側面
停止 白線 恥骨結合前面 鼠径靭帯
神経 肋間神経 T5~L1
作用 両側:側屈 片側:同側側屈 反対側回旋
血管 上下腹壁動脈
□特徴
腹壁の外側部を後上方から前下方に走る筋で、同じ走行を示している。
外腹斜筋の腱膜は下縁部で特に強く厚くなって、鼠径靭帯をつくっている。
鼠径靭帯の主部は上前腸骨棘と恥骨結節との間に張っているわけであるが、上は外腹斜筋の腱膜に移行して明らかな境界を認めない。
これに対して下縁ははっきりしていて、腹部と大腿部との境をなしている。
外腹斜筋は腹直筋と広背筋の間にある。
線維はほとんど平行して後上方から斜めに前下方に走行するが、後部繊維はほぼ垂直に走る。
外腹斜筋は腹壁の表在筋層をなす。
下位肋骨から起こる厚い筋線維群は、前鋸筋と鋸歯状に接しており、また上下方向で互いに部分的に重なり合い外側腹壁を形成する。
これらの線維はさらに腱膜に移行し、その移行部線維ははじめは垂直に腹直筋外側縁と平行に走り、最後は斜下後方に走る。
この腱膜は腹直筋鞘の前壁形成に関与し、反対側の同線維と一緒になって白線の形成を助けている。
第9肋骨からおこる線維は恥骨に付着し、大腿の同側と反対側の内転筋群付着部に腱膜の線維をおくっている。
第10肋骨からおこる線維は鼠径靭帯に付着し、浅鼠径輪を形成する。
浅鼠径輪は恥骨と鼠径靭帯の付着部となる恥骨結節より構成され、上外側に頂点を、下内側を底とする三角形の開口部をなしている。
FFL上。
内腹斜筋 Internal oblique
起始 腰背筋膜深葉 腸骨稜の中間線 鼠径靭帯外側
停止 後部筋束は第11・12肋骨 ほかは腹直筋鞘外縁で腱膜となり2枚に分かれて腹直筋鞘の前後両葉に移る
神経 肋間神経 腰神経 腸骨下腹神経 腸骨鼠径神経 T7~L1
作用 両側:屈曲 片側:同側側屈 同側回旋
血管 上下腹壁動脈 深腸骨回旋動脈
□特徴
内腹斜筋は外腹斜筋の内側にある。
筋線維の走行は大部分が下外方から上内方へ向かい、後部は上前方に、前部は水平ないしは前下方に向かう(内肋間筋と同方向)。
いくつかの線維群は第11と12肋骨に直接付着し、他の線維群は第11肋骨尖端から起こる線に沿って形成される腱膜を介して肋骨に間接的に付着し、垂直方向には腹直筋の外側縁に向かって走行している。
これらの腱膜は第10肋軟骨と剣状突起に付着し、腹直筋鞘の前壁形成に関与している。
更に正中線上で反対側からの同線維と一緒になり白線を形成する。
内腹斜筋の最下部の線維は鼠径靭帯に直接付着し、水平方向に走り、その後下内側方向に斜走し、腹横筋と共同腱となり恥骨結合および恥骨稜上縁に付着する。
このようにして共同腱は深鼠径輪壁の一部を形成している。
側腹部では外腹斜筋と直角に交差する。
内腹斜筋は腹壁筋群の中間層をなす。
腹横筋 Transversus abdominis
起始 下位肋骨 胸腰筋膜 腸骨稜 鼠径靭帯
停止 剣状突起 白線 恥骨結節
神経 肋間神経 腸骨下腹神経 腸骨鼠径神経
作用 下位肋骨の引き下げ 腹腔内圧上昇
血管 深腸骨回旋動脈 下腹壁動脈
□特徴
外側腹斜筋群の最深層にある。
腰椎横突起尖端後方に付着し、その水平に走る線維は外側前方に走り、内臓を包んでいる。
更に腹直筋の外側縁で腱膜に移行し、正中線を越えて反対側の腱膜と一緒になる。
腱膜の大部分は、腹直筋鞘後壁の形成に関与する腹直筋よりも深部にある。
しかし臍より下方では、その腱膜は腹直筋の表層を走っている。
このレベルでは腹直筋は腹横筋腱膜の深層に接しながら腹横筋下を縦走している。
このレベルより下方では腱膜は腹直筋鞘の前壁に結合している。
中部線維のみが水平に走り、上方斜線維は上内側方に走り、下方斜線維は下内側方に走っていることが分る。
最下部の線維は恥骨結合と恥骨の上縁に終わり、内腹斜筋と合して共同腱となる。
後腹筋
腰方形筋 Quadratus lumorum
尾骨筋 Coccygeus
鼠径部 Inguinal region
外腹斜筋の筋膜は下縁部で特に厚くなっていて、鼠径靭帯をつくっている。
鼠径靭帯の主部は上前腸骨棘と恥骨結節との間に張っているが、上は外腹斜筋の筋膜に移行して明らかな境界を認めない。
これに対して下縁は、はっきりしていて腹部と大腿部との境をなしている。
鼠径靭帯の内側部は斜めに鼠径管で貫かれている。
長さは約4cmで、その中には男性では精索(精管と精巣動・静脈および神経)、女性では̪子宮円索が通っている。
胎児期において、腹腔から鼠径管を通過して陰嚢の中に入るという精巣の”移動”過程で、精巣と精索は腹壁を押し出し腹壁を伴って移動する。
それは、指で4層で出来たゴムを押し出してゴム手袋を造るようなものである。
腹壁の各層は精索を覆う被膜となる。
鼠径管の前下口を浅鼠径輪、後上口を深鼠径輪という。
浅鼠径輪のところは腹側筋の欠如する部分で、腹壁の弱点をなすので、腸が腹壁を押して飛び出してくることがある(いわゆる脱腸)。
これが内側(直接)鼠径ヘルニアである。
また鼠径管が緩く出来ていると、腸が深鼠径輪から浅鼠径輪へと飛び出してくることがある。
これが外側(間接)鼠径ヘルニアである。
男児にしばしばみられる。