顔面筋は一般に小さい皮筋である。
頭蓋から起こって顔面の皮膚につき、これを動かしていわゆる表情をつくるものであるから、これをまた表情筋という。
表情筋は薄くて扁平な筋束である。
その筋束は顔面の骨や軟骨から始まり、眼窩部や口部の括約筋を覆っている真皮や結合組織に停止する。
一般的に表情筋は停止部の皮膚を動かす。
これらは完全に独立しているものではなく、相互の間に筋繊維束が移行しているものが多い。
顔面筋は主に眼瞼裂・耳介・鼻孔・口裂など顔面に開いている窓の周囲に集まって、その開閉や変形を行うが、その中でも口裂周囲の筋群が最もよく発達している。
顔面筋はすべて顔面神経の支配を受ける。
⒈頭蓋表情筋
頭蓋冠を包む薄板状の筋群である。
後頭筋 Occipitalis 前頭筋 Frontalis
外後頭隆起の両側において後頭骨から起こり、頭蓋の後頭部を包んで上行したのち、帽状腱膜(幅の広い薄い腱)となって頭頂部をおおい、その先は再び筋性となって前頭筋をなし、眉の皮膚についている。
P.N.A.では後頭前頭筋という名で1つにまとめられた。
後頭前頭筋-前頭筋:額の皮膚に横のひだを作り眉を上げる。
後頭前頭筋-後頭筋:帽状腱膜を後方に引き、額を滑らかにする。
⒉耳介周囲の筋
前耳介筋 Auricularis anterior 上耳介筋 Auricularis superior
後耳介筋 Auricularis posterior
人類では退化してほとんどその作用を失っている。
これらを外耳介筋といって、耳介に終始する内耳介筋と区別することがある。
内耳介筋も人では著しく退化しているが、筋そのものは健全であり、神経もちゃんと分布しているから、神経を人工的に刺激するか、あるいは練習によって動かし方を習得すれば人の耳介もある程度まで随意的に動かすことができる。
⒊目の周囲の筋
鼻根筋 Procerus
鼻背から起こり、額の皮膚につく小筋で、眉間の皮膚を下に引く
雛眉筋 Corrugator supercilii
眉間の骨部から起こり、斜に外上方に走って眉の皮膚につく
眉を下内方に引き寄せ、眉間に縦のしわをつくる
眼輪筋 Orbicularis oculi
眼瞼裂の周囲を輪状に取り巻く重要な筋で、主として眼窩内側部の骨から起こる
一部の眼瞼のなかにあり、他はさらに周囲の皮膚の中に拡がっている
涙腺部、涙嚢を広げて涙を吸い込ませる
鼻筋 Nasalis
犬歯と側切歯の歯槽隆起のあたりから起こり、鼻背・鼻翼・鼻中隔にいく
⒋口の周囲の筋
上唇鼻翼挙筋 Levator labii superioris alaeque nasi(眼角筋:Angularis)
内眼角部から起こり上唇につく
上唇挙筋 Levator labii superioris(眼窩下筋 Infraorbitalis)
眼窩下孔の上方から起こり、上唇につく
小頬骨筋 Zygomaticus minor
頬骨から起こり、斜に下内方に走って上唇につく
大頬骨筋 Zygomaticus major
頬骨から起こり、小頬骨筋の下方をこれと並んで走り、口角部の皮膚につく
笑筋 Risorius
咬筋筋膜から全内方に走り、口角につく薄弱な筋である
口角下制筋 Depressor anguli oris(三角筋 Triangularis)
下顎体の下縁から起こり、上方に集まって口角につく
口角挙筋 Lavator anguli oris(犬歯筋 Caninus)
犬歯窩から起こって下方に走り、口角につく
(眼窩下動静脈と眼窩下神経はちょうど本筋と眼窩下筋との間に出てくる)
下唇下制筋 Depressor labii inferioris
下顎体の下縁から起こり、上内方に走って下唇につく
本来、広頚筋の一部で筋の走行は口角下制筋と交叉している
頬筋 Buccinator
馬蹄形の起始をもって上下顎骨の歯槽部の後部側面から起こり、頬の中を前走して口角部に行く
口角を外後方に引き、また口角が固定されていると頬を内方に向かって歯列に押し付ける
後者は咀嚼の時、物を吹くときなどに重要でその役割がどんなに大切かは、顔面神経麻痺によって頬筋の作用が脱落した場合にはっきりわかる
この筋は内側面は頬粘膜とかたく癒着し、外側面は比較的厚い頬咽頭筋膜におおわてている
口輪筋 Orbicularis oris
上下の唇の中で、口裂を輪状に取り巻く筋で口裂を閉じる作用を持っている
なおその一部の筋束は上下顎の側切歯の歯槽隆起から起こって口角についており、口唇を前方にとがらすので口笛を吹いたり、接吻したりするときに用いられる
おとがい筋 Mentalis
下顎側切歯の歯槽隆起から起こり、下前方に走って、おとがいの皮膚につく
この筋が緊張すると、おとがいの皮膚に桃の種の表面の様に多数のくぼみができる